中国からの留学中止が相次ぐというニュースが出てから、現場でも少しずつ違和感を覚える相談が増えてきた。
本人の意思とは無関係に、日本への留学が「大学の判断」で止められる。そうしたケースが、点ではなく線になりつつある。
今回のテレビ朝日の報道は、その実態を具体的に示している。
中国政府が自国民に対し「日本への留学自粛を検討するよう」呼びかけてから約1か月。
交換留学、国費留学、研究員としての渡航など、すでに複数の日本の大学で中止や延期が確認されている。
印象的だったのは、学生本人の言葉だ。
「行きたいと言ったのに、大学がキャンセルしたと言われた」
「衝突すれば影響を受けるのは庶民だ」
これは制度の話であると同時に、生活と将来の話でもある。
行政書士としてこのニュースを見るとき、まず頭に浮かぶのは「ビザの問題」だ。
留学や研究目的で日本に来る場合、在留資格「留学」や「教授」「研究」などが想定されるが、これらは本人の意思だけでは完結しない。
受入機関の存在が前提であり、在留資格認定証明書の交付申請や、ビザ取得に必要な書類の発行は、大学側の協力が不可欠になる。
今回、名古屋大学で確認された「ビザ取得に必要な書類を発行してもらえなくなった」という説明は、まさにその核心だ。
形式上は「本人が申請できない」のではない。
実態としては「制度の入口に立てなくなった」という表現のほうが近い。
もう一つ、見逃せないのは「本人の落ち度が一切ない」という点だ。
出入国在留管理庁が何か不許可を出したわけでもない。
日本の大学が拒否したわけでもない。
入管法違反や素行不良があるわけでもない。
それでも、留学は止まる。
国と国の関係が悪化するとき、最初に影響を受けるのは、こうした制度の周辺にいる人たちだという現実が、改めて浮き彫りになった。
実務的に見れば、今後考えられる影響は少なくない。
まず、中国からの留学生・研究者の減少は、日本の大学や研究機関にとっても打撃になる。
特定分野では、中国人留学生や研究員に依存している研究室も珍しくない。
次に、在留資格実務の観点では「申請できないケース」が増える可能性がある。
書類が出ない以上、行政書士としても手の打ちようがない場面が出てくる。
これは、制度上の問題ではなく、制度が使えなくなる問題だ。
個人的には、この手の話を聞くたびに、少し複雑な気持ちになる。
日本に憧れ、日本語を学び、日本で研究したいと考えていた若者が、政治や外交の波に飲み込まれていく。
その結果、日本社会との接点そのものが失われていく。
多文化共生という言葉を使う以前に、入口が閉じられてしまう。
在留資格の専門家としてできることは限られているが、少なくとも「何が起きているのか」を正確に伝える役割は果たしたいと思っている。
【結論】
中国政府による留学自粛の呼びかけは、すでに日本の大学現場や在留資格実務に具体的な影響を及ぼしている。本人の意思とは無関係に、制度の入口が閉ざされるケースが現実化している。
【根拠】
・テレビ朝日ANNによる取材報道
・名古屋大学、北海道大学、立命館大学での中止・延期事例
・在留資格「留学」「研究」等における受入機関依存の制度構造
【注意点・例外】
・すべての中国人留学生が対象となっているわけではない
・大学や所属機関、プログラムの性質により対応は異なる
・今後の外交・政治状況次第で方針が変わる可能性がある
【出典】
・テレビ朝日ANN
「中国からの留学中止相次ぐ『先生が一方的に…』日本への“留学自粛検討”から1カ月」
