特定技能(土木)を“金属くず回収業者”が雇用?入口から不適合だった可能性──不法就労助長事件が示す重大な問題点

皆さんおはようございます。いつもブログを見ていただきありがとうございます。
新潟市西区のビザ専門行政書士、Asocia行政書士法務事務所です。
2025年11月に報じられた事件では、中国籍の特定技能1号(分野:土木)を持つ男性が、金属くず買取業務や“工場長”として働かされていた疑いで、雇用企業の社長が不法就労助長罪で逮捕されました。
この事件は「特定技能で認められない業務をさせた」という表面的な問題だけでなく、もっと深刻な論点を含んでいます。
■ そもそも「金属くず回収業」は特定技能(土木)の対象外

まず最も重要なポイントはここです。
【結論】
金属くず回収業者は、特定技能1号(土木分野)で外国人を受け入れる資格がそもそもありません。
【根拠】
一次情報として、国土交通省が公表する
「建設分野 特定技能1号 受入れ運用要領」では、
特定技能(土木)が従事できる業務は
-
土木一式工事
-
舗装工事
-
とび・土工工事
-
コンクリート工事
など、建設業法に基づく“建設工事そのもの”に限定されています。
リサイクル業、金属買取、資源回収、工場ライン管理は、
建設工事に該当しません。
■ ではなぜ受け入れられていたのか?

現時点で記事から分かる範囲では、詳細は公開されていません。
ただし行政書士としての「制度運用上の常識」から言えるのは次の3つです。
① 建設業許可は持っていたが、実態は金属リサイクル業だった
企業の中には「建設業許可はあるが、実際にはそれ以外の事業がメイン」というケースがあります。
特定技能の受入れは“実態”が審査対象。
許可があるだけで受入れできるわけではありません。
② 受入れ時は建設現場に配置予定だったが、後に工場へ異動
特定技能でもっともトラブルの多いパターンです。
-
申請書類では「建設現場の作業者」
-
実際は工場に配置
-
入管へ無届けのまま業務変更
これは完全に資格外活動→不法就労になります。
③ 技能実習からの移行で“土木”を選んだが、会社側が業務を理解していなかった
技能実習→特定技能への移行は一般的ですが、
分野選択を誤ると、受入れ企業との整合性が取れなくなることがあります。
■ 特に深刻なのは「入口の不適合」

今回の事件の核心部はここです。
【結論】
“特定技能(土木)を受け入れること自体が不可能な業者”だった疑いがある。
つまり、
-
受入れ企業として不適格
-
業務内容も不適格
-
配置転換も不適格
という“三重の不適合”が発生していた可能性が高いということです。
■ 工場長としての配置は制度違反の典型

特定技能1号は、専門性はあるものの
-
管理職
-
監督者
-
指揮命令者
といった立場には就けない制度です。
【根拠】
法務省「特定技能運用要領」では
『一定の専門性を有する“現場作業者”』と定義。
管理業務は制度の想定から外れています。
■ 今回の事件で企業側の責任はどうなるか?

入管難民法には両罰規定(第76条の2)があり、
-
社長(個人):不法就労助長罪(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)
-
法人:罰金刑
が科されます。
特定技能の受入れ停止処分につながる可能性も極めて高く、
企業にとっては甚大な影響があります。
■ 不法就労助長罪は「故意」がポイント?

企業側がよく口にする言い訳が、
-
「知らなかった」
-
「現場の判断だった」
-
「日本語が上手いから適任だと思った」
ですが、これは通りません。
【結論】
“在留資格を確認しなかったこと”自体が過失として扱われるため、故意の有無は免責にならない。
根拠:入管法の判例・通達(雇用者の確認義務について言及)
■ 行政書士として推奨する「再発防止策」

企業の現場で起きがちな誤りを防ぐには、以下の体制整備が必須です。
① 在留資格別の「業務可否リスト」を作成
特定技能・技能実習・技人国など、在留資格ごとに
できる仕事/できない仕事を表にして現場に共有。
② 配置転換は必ず入管への確認をセットに
「現場が人手不足だから工場へ回した」
──これは最も多い違反例。
配置変更=在留資格の再チェックが必要。
③ 現場責任者への研修
管理職が制度を理解していないと、今回のような事件は簡単に起こります。
④ 外国人雇用顧問の活用
継続的に入管法・労務・社会保険の専門家が関与することで
違法配置の芽を事前に摘み取ることが可能。
■ まとめ:今回の事件が示した“本当の問題”

特定技能は人材不足に悩む現場にとって重要な制度ですが、
受入れ側の無理解は企業も外国人も不幸にします。
今回の事件の本質は以下の3点です。
-
金属くず回収業者は特定技能(土木)の受入れ対象ではない(入口の不適合)
-
管理職業務や工場作業は土木分野に含まれない(業務内容の不適合)
-
制度理解の欠如による不法就労助長(運用の不適合)
これらが重なれば、最悪の場合今回のように経営者逮捕につながります。
外国人材を守り、企業の信頼を守るためにも、
在留資格制度の正確な理解が不可欠です。
2027年には特定技能の受入業種の中に「資源循環」の分野の追加が検討されています。
詳細内容はまだ不明ですが、この業種に金属くず回収の作業が追加されれば、今後特定技能外国人を
雇用する道が開かれるかもしれません。
■ 出典(一次情報)
-
入管難民法 第73条の2(不法就労助長罪)・第76条の2(両罰規定)
-
法務省「特定技能制度運用要領」
-
国土交通省「建設分野 特定技能1号受入れ運用要領」
-
国土交通省「建設業許可制度」
-
神奈川新聞(2025/11/18報道)※要旨のみ参照、本文引用なし
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