茨城県の「不法就労通報報奨金制度」をどう見るか
茨城県が、不法就労に関する情報提供で摘発につながった場合に報奨金を支払う制度の導入を目指している、という報道が続いています。
報道ベースでは、来年度からの導入を目指し、報奨金は1万円程度。
知事は、まじめに働いている外国人まで不安にさせる制度にはしない、事業者に関する通報に限定し、匿名通報は受け付けない趣旨を説明しています。
ただ、現時点では制度の詳細な運用要領まで十分に公表されているとは言い切れません。最終的な制度設計は、なお慎重に見ていく必要があります。
不法就労それ自体は、もちろん放置してよい問題ではありません。
入管行政の公平性を損ねますし、適法に在留・就労している外国人にしわ寄せがいく。
まじめに手続きをしている会社ほど損をする構造も生みます。その意味で、対策が必要だという出発点自体は間違っていないと思います。
実際、出入国在留管理庁の公表では、2024年に不法就労と認定された外国人は全国で1万4,453人、そのうち茨城県で就労していた人は3,452人で、就労場所別で最多でした。
問題は「取り締まりの必要性」だけではない

このテーマは、賛成か反対かだけで切ってしまうと、大事なところを見失いやすい論点です。
不法就労対策は必要です。そこは前提として外せません。
けれども同時に、不法就労かどうかは見た目ではわからない。
日本語が拙い、外国籍に見える、夜遅くまで働いているように見える。
その程度の印象で「怪しい」と扱われ始めると、現場の空気は一気に変わります。
報道の中で、正規の在留資格で働くベトナム人男性が「結局同じように見られてしまう」と話していたのは、とても重い言葉だと感じました。
制度が個人通報ではなく事業者通報に寄せられていたとしても、入口の動機が偏見に引っ張られる危険までは消えません。
外見では不法就労かどうかは判断できない
ここが、この制度のいちばん難しいところです。
在留資格の有無、就労の可否、資格外活動の範囲、雇用形態との整合性は、在留カードや許可内容、実際の業務内容を見なければ判断できません。
外見や話し方だけでわかるものではない。にもかかわらず、通報という仕組みだけが前面に出ると、どうしても「外国人を見たら疑う」という方向に流れやすい。
制度の趣旨がどうであれ、現場で受け止められる空気は別です。そこは制度設計の書きぶり以上に重い部分かもしれません。
実務では「雇う側の責任」を外せない

行政書士実務の感覚でいうと、不法就労の問題は外国人本人だけの問題として処理できません。
受け入れる事業者、仲介するブローカー、就労実態を十分に見ていない派遣構造、安さだけを優先する発注側。いくつもの要素が重なって、初めて不法就労は成り立ちます。
だから、通報制度だけを前面に出すと、話がどうしても「働いている外国人を見張る方向」に寄ってしまう。そのズレは小さくありません。
労働法令違反の多さが示しているもの
厚生労働省は2025年、特定技能外国人を使用する事業所の76%で労働基準関係法令違反があったと公表しています。技能実習でも高い割合で違反が確認されています。
ここで見えてくるのは、外国人雇用の問題のかなりの部分が、受け入れ側の法令順守や労務管理の問題でもあるということです。
つまり、働く外国人だけに視線を集めても、根本はなかなか変わらない。
結局、不法就労は雇う側がいるから成立します。
ならば、本当に重点を置くべきなのは、悪質な雇用主や不透明な仲介構造の方ではないか。私はそう考えます。
本当に効く対策は何か
現場で効くのは、通報件数を増やすことよりも、事業者への実地確認、在留カード確認の徹底、雇用契約書の適正化、紹介会社や派遣スキームの監督強化、そして悪質事業者への公表や処分です。
派手さはありません。
ただ、こういう地道な管理の方が、実はずっと効きます。違法雇用の入口を狭める方が、社会の副作用も小さいからです。
地域社会に残るのは「制度」より空気かもしれない

茨城県は、農業をはじめ外国人材への依存度が高い地域です。現場では、すでに外国人材なしでは回らない業種も少なくありません。
一方で、人手不足は深刻です。人手不足関連倒産が増えているという報道もあり、企業側には切迫感があります。だからこそ、外国人材に頼らざるを得ない。
でも制度面では厳格化も進めたい。この緊張関係の中で、通報報奨金だけが強く打ち出されると、働く側から見れば「必要とは言われるけれど、同時に警戒されてもいる」という複雑な空気になります。
これ、数字には出にくいですが、現場ではかなり大きい話です。
適法に働く外国人ほど傷つきやすい
税金も納めている。社会保険にも入っている。真面目に働いている。それでも「外国人労働者」という大きな括りで疑いの目を向けられるかもしれない。そう感じれば、不安になるのは当然です。
職場は法律だけで動いているわけではなく、人間関係や信頼で回っている部分がかなりあります。農場でも、工場でも、介護でも、少し疑心暗鬼が入ると現場はぎくしゃくします。
制度の目的が正しくても、信頼を削る設計だと、長くは持たない。そこは見落とせません。
では、どんな制度設計ならまだバランスが取れるのか

私見ですが、最低限必要なのは、通報対象を「外国人個人」ではなく「具体的な違法雇用の疑いがある事業者行為」に厳格に限定することです。
単なる印象や属性、外見による情報提供は排除しなければいけない。
匿名通報を受け付けないという方向性は、その意味では一定の歯止めになります。ただ、それだけで十分とは言えません。
運用で重要になるポイント
制度の実効性と副作用の両方を考えると、少なくとも次の点は重要です。
通報の受付基準が曖昧にならないこと
何をもって受理するのかが曖昧だと、偏見ベースの通報が入りやすくなります。
虚偽通報や濫用への対策があること
感情的な通報や競合排除目的の通報が起きないとは言い切れません。
調査前の事実確認が丁寧であること
通報があったから即調査、という運用だと、現場に与える萎縮効果が大きくなります。
制度実績の公表方法が慎重であること
件数だけが独り歩きすると、制度の成果よりも不安の方が広がるおそれがあります。
ここが曖昧なままだと、推測ですが、現場では「結局、外国人を見たら通報されるのでは」という受け止めが先に広がると思います。
企業側が今やるべきこと

この議論は、外国人を雇用している企業にとって他人事ではありません。
在留カードを見たから大丈夫、では足りない時代です。就労可能な在留資格か、資格外活動許可の範囲内か、在留期限は切れていないか、実際の業務内容が在留資格と整合しているか。派遣や請負のスキームに無理がないか。そこまで見て初めて、雇用の入口が整います。
制度が厳しくなるとき、本当に痛い目を見るのは、雑な確認で回していた事業者です。
逆に言えば、普段から雇用管理を丁寧にしている会社ほど、こうした制度変更にも比較的耐えやすい。
行政書士として感じること

私は、この問題を「取り締まりか、人権か」という単純な二項対立で語るべきではないと思っています。
不法就労対策は必要です。ただ、その矛先が、適法に働く外国人への漠然とした監視や偏見に流れてはいけない。必要なのは、外国人をひとくくりにして疑う仕組みではなく、違法雇用を生み出す構造を丁寧に潰していくことです。
少し地味です。でも、結局そこが一番効きます。
ルール違反は取り締まる。
一方で、まじめに働く人が肩身の狭い思いをしないようにする。その両立ができなければ、この制度は数字が動いても、社会の信頼を削って終わるかもしれません。私はそこを一番心配しています。
【結論】
茨城県の不法就労通報報奨金制度は、不法就労対策の必要性という点では理解できる一方、偏見や分断を招くリスクが高く、制度の成否は「外国人個人を疑わせる仕組み」にならないかにかかっています。実効性を高めるには、通報奨励よりも、雇用者責任の追及と悪質事業者対策を中心に据えるべきだと考えます。
【根拠】
2024年の不法就労者は全国で1万4,453人、うち茨城県で就労していた人は3,452人で最多とされています。報道では、茨城県は2026年度から通報報奨金制度の導入を目指し、事業者通報限定・匿名不可の方向を示しています。また、厚生労働省は特定技能外国人を使用する事業場の76%で労働基準関係法令違反があったと公表しており、受け入れ側の法令順守にも大きな課題があります。
【注意点・例外】
現時点で確認できるのは報道や会見内容が中心で、最終的な制度要綱や運用基準の全容は未確認です。報奨金額、通報要件、審査手順、虚偽通報対策などは今後変わる可能性があります。制度の適法性や運用の妥当性については、正式資料を確認したうえで、必要に応じて専門家に確認が必要です。
【出典】
・TBS NEWS DIG 2026年3月11日報道「外国人の不法就労“通報”に報奨金…」
・茨城県 令和8年度当初予算案等発表記者会見要旨
・出入国在留管理庁「令和6年における入管法違反事件について」
・厚生労働省「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導、送検等の状況」
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