外国人IT人材が「10万人規模」になった意味
日本のIT業界で働く外国人材が、いよいよ10万人規模に近づいています。
ヒューマンリソシアが2026年2月24日に公表した分析によれば、2025年にIT業界で働く海外人材は前年比8.1%増の9.8万人となり、10万人に迫る規模になりました。
同社の分析は、厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況などを基にしたものです。
厚生労働省の令和7年10月末時点の「外国人雇用状況」でも、外国人労働者数は2,571,037人となり、届出義務化以降で過去最多を更新しています。
専門的・技術的分野の在留資格も865,588人まで増加しており、外国人材はもはや一部の業界だけの話ではなくなっています。
現場感覚としても、「外国人を採用するかどうか」ではなく、「どの分野で、どのように採用し、どう定着してもらうか」という段階に入っていると感じます。
特にIT分野では、外国人材は単なる人手不足対策ではありません。
システム開発、社内DX、海外展開、多言語対応、グローバルチームの構築など、企業の競争力そのものに関わる存在になりつつあります。
中心となる在留資格は「技術・人文知識・国際業務」

ITエンジニアとして日本で働く外国人の多くは、在留資格「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる「技人国」で就労しています。
出入国在留管理庁は、技術・人文知識・国際業務について、日本の公私の機関との契約に基づき、理学、工学その他の自然科学分野の技術・知識を要する業務などに従事する活動と説明しています。
該当例としては、機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、語学教師、マーケティング業務従事者等が挙げられています。
ITエンジニア、システムエンジニア、プログラマー、インフラエンジニア、データ分析担当などは、この「技術」の領域で検討されることが多いです。
ただし、ここで注意したいのは、「IT企業に就職するから技人国で大丈夫」という単純な話ではないことです。
入管実務では、会社名や業界名だけでなく、実際に従事する業務内容、本人の学歴・専攻、職歴、報酬額、雇用契約、会社の事業内容などを総合的に見ます。
たとえば、名目はITエンジニアでも、実際には単純な入力作業、倉庫作業、接客中心、テレアポ中心という内容であれば、在留資格該当性が問題になります。
ここは採用企業が誤解しやすいところです。内定を出した後に「ビザは何とかなるだろう」と考えるのではなく、採用前の段階で、本人の学歴・職歴と予定業務がつながるかを確認する必要があります。
なぜ外国人IT人材は東京に集中するのか

今回の分析で特に印象的なのは、IT業界で働く外国人材の約8割が東京で就業しているという点です。
ヒューマンリソシアの発表では、東京で就業するIT業界の海外人材は、2021年の5.7万人から2025年には7.8万人に増加し、IT業界で働く海外人材全体に占める割合は約8割とされています。
一方で、IT業界全体の就業者に占める東京の割合は3割強にとどまり、全産業における外国人材の東京比率も25.4%とされています。つまり、外国人IT人材の東京集中は、一般的な外国人労働者の東京集中よりも、かなり強い傾向だといえます。
なぜ、ここまで東京に集中するのでしょうか。
理由は一つではありません。
東京にはIT企業、外資系企業、スタートアップ、大手企業の本社、受託開発会社、SIer、ITコンサル企業が集まっています。
求人の数が多く、英語を使う職場や多国籍チームも比較的見つけやすい。外国人本人から見ると、転職先の選択肢が多いことも大きな安心材料になります。
さらに、生活面でも東京は外国人にとって情報を得やすい地域です。
母国コミュニティ、国際交流、外国語対応の病院、行政サービス、宗教・食文化への対応など、生活の立ち上げがしやすい。
外国人IT人材が「東京以外では働かない」と言っているというより、実際には「東京以外で働く理由がまだ十分に見えていない」と捉えた方が、実務感覚には近いかもしれません。
地方企業にとっての課題は「採用」よりも「選ばれる理由」

地方企業が外国人IT人材を採用しようとするとき、よくあるのが「地方は人件費が安いから採用できるのでは」という発想です。
しかし、これはかなり危うい見方です。
IT人材は国際的にも需要が高く、優秀な人ほど複数の選択肢を持っています。
日本国内でも東京、神奈川、大阪、福岡などの都市部求人と比較されます。リモートワーク可能な企業、英語環境のある企業、キャリアアップしやすい企業、給与水準の高い企業とも比較されます。
地方企業が外国人IT人材を採用するには、「なぜこの会社で働くのか」「なぜこの地域で暮らすのか」を言語化する必要があります。
たとえば、次のような視点です。
キャリアの見通しを示せるか
外国人IT人材にとって、日本での就労は人生設計そのものです。
単に「エンジニアとして採用します」だけではなく、どの技術領域を担当するのか、将来的に上流工程に関われるのか、マネジメントに進めるのか、海外事業に関われるのかを説明できることが重要です。
在留資格上の安定性を確保できるか
技人国では、業務内容と本人の学歴・職歴との関連性が重要になります。
採用時点では問題がなくても、入社後に現場都合でまったく異なる業務へ配置すると、次回更新や転職時に説明が難しくなることがあります。
外国人本人にとって、在留資格が不安定な職場は大きなリスクです。企業側が在留資格を理解していること自体が、採用上の信頼材料になります。
生活支援をどこまで考えているか
高度人材だから生活支援は不要、というわけではありません。
住居、銀行口座、携帯電話、役所手続、家族帯同、子どもの教育、医療、地域での孤立感。こうした生活面の不安が積み重なると、仕事のパフォーマンスにも影響します。
地方では、外国人コミュニティが小さい分、企業のサポート体制が定着率を左右する場面があります。
行政書士として見る「IT人材採用」の実務上の落とし穴

外国人IT人材の採用で、行政書士として特に注意している点があります。
一つ目は、職務内容の書き方です。
申請書類上、「システム開発」「プログラミング」などと書くだけでは足りないことがあります。
どのシステムを、どの言語・技術で、どの工程を担当するのか。本人の専攻や職歴とどうつながるのか。ここを丁寧に整理しないと、実態が伝わりません。
二つ目は、学歴と業務の関連性です。
情報工学、コンピュータサイエンス、電気電子、数理、AI、データサイエンスなどであれば比較的説明しやすい一方、専攻が離れている場合は、職歴や実務経験、研修歴、ポートフォリオなどを含めて検討する必要があります。
個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
三つ目は、採用後の配置転換です。
入社時はエンジニアとして許可を得たのに、人手不足を理由に営業補助、現場作業、単純な運用監視だけに寄せてしまうと、在留資格との整合性が崩れることがあります。
会社に悪意がなくても、結果として不適切な就労と見られるリスクがあります。
地方にもチャンスはある。ただし「東京の代替」ではなく「地方ならではの価値」が必要

外国人IT人材の東京集中を見ると、地方企業には厳しいように感じます。
しかし、私は地方にも十分チャンスはあると思っています。
地方企業には、東京の大企業では得られない魅力があります。経営者との距離が近いこと、幅広い業務に関われること、地域課題に直結したDXに携われること、生活コストが比較的抑えられること、家族で落ち着いて暮らせること。
ただし、それを「なんとなく良い環境です」では伝わりません。
外国人材に対しては、仕事内容、キャリア、給与、生活環境、在留資格の安定性を、できるだけ具体的に説明する必要があります。
地方採用で大切なのは、東京と同じ土俵で競うことではなく、「この地域、この会社で働く意味」を見せることです。
外国人IT人材の増加は、日本企業にとって大きな可能性です。ただ、在留資格の理解がないまま採用だけを急ぐと、本人にも企業にも不利益が生じます。
IT人材採用は、人事戦略であると同時に、在留資格実務でもあります。ここを分けて考えないことが、これからの外国人雇用ではますます重要になるはずです。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」による外国人IT人材の採用では、求人票や雇用契約書だけでなく、実際の業務内容、本人の学歴・職歴、会社の事業内容との整合性が問われます。
採用前の段階で不安がある場合は、早めに専門家へ確認することをおすすめします。
- 記事末尾の整理
【結論】
外国人IT人材は10万人規模に近づき、日本のIT業界における重要な人材層になっています。ただし、その多くは東京に集中しており、地方企業が採用するには、給与や求人条件だけでなく、キャリア、生活支援、在留資格の安定性を含めた「選ばれる理由」を示す必要があります。
【根拠】
厚生労働省の令和7年10月末時点の「外国人雇用状況」では、外国人労働者数は2,571,037人となり過去最多を更新しています。
ヒューマンリソシアの2026年2月24日発表では、IT業界で働く海外人材は2025年に9.8万人となり、約8割が東京で就業していると分析されています。
出入国在留管理庁は、在留資格「技術・人文知識・国際業務」について、理学・工学その他の自然科学分野等の技術・知識を要する業務などに従事する活動と説明しています。
【注意点・例外】
IT企業に就職するからといって、必ず「技術・人文知識・国際業務」が許可されるわけではありません。本人の学歴・職歴、予定業務、報酬、会社の事業内容、雇用契約の実態などにより判断されます。
入社後の配置転換にも注意が必要です。許可時に説明した業務と実際の業務が大きく異なる場合、更新時や転職時に問題となる可能性があります。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
ヒューマンリソシア「IT業界で働く海外人材、約8割が東京で就業 10万人規模、同業界の3.2%に」
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