この記事のポイント

- 月29万2,400円は一般労働者の9月分で、手取り額ではない
- 6.4%は集団平均の上昇率で、個人の一律昇給率ではない
- この平均額が在留資格審査の基準になるわけではない
厚生労働省は2026年8月31日、令和7年外国人雇用実態調査の結果を公表しました。
一般労働者の「月間きまって支給する現金給与額」は29万2,400円で、前年の27万4,900円から6.4%増えています。
日本経済新聞は、国内の賃上げが外国人にも波及したと報じました。
ただし、「外国人の平均給与は約29万円」とだけ読むと実態を見誤ります。待遇と定着を競う採用への変化も見えます。
「月29万2,400円」は何を表す数字なのか

対象は、雇用保険の被保険者が5人以上で、外国人を1人以上雇用する事業所です。
3,919事業所と外国人労働者1万4,248人の有効回答から、2025年9月30日時点の状況を推計しています。
この調査の外国人常用労働者は約204万人です。
2025年10月末の外国人雇用状況の届出の約257万人とは、対象、時点、集計方法が違うため、単純には比較できません。
29万2,400円は、「一般労働者」に9月分として決まって支給された給与の平均です。
時間外勤務手当などを含み、賞与は含みません。手取り額でもなく、短時間労働者は別集計です。
在留資格別の結果を見ると、同じ「外国人労働者」という言葉では括れない差が見えてきます。
| 在留資格区分 | 月間きまって支給する現金給与額 | 前年比 | 所定内・超過実労働時間 |
|---|---|---|---|
| 外国人一般労働者全体 | 29万2,400円 | 6.4%増 | 158.7時間・17.6時間 |
| 専門的・技術的分野 | 30万6,500円 | 6.0%増 | 159.4時間・16.4時間 |
| うち特定技能 | 25万4,100円 | 1.5%増 | 163.1時間・20.3時間 |
| 技能実習 | 21万3,500円 | 1.7%増 | 165.2時間・21.4時間 |
| 身分に基づく在留資格 | 34万7,200円 | 13.8%増 | 151.0時間・15.8時間 |
「技術・人文知識・国際業務」は34万3,100円、高度専門職は47万7,600円でした。
職種や経験が異なるため、全体平均をそのまま採用相場にするのは危険です。
6.4%増を「全員の賃上げ率」とは読めない

今回の6.4%は、前年と今年の集団平均を比較したものです。同じ労働者を追跡して、個人ごとの昇給率を測った数字ではありません。
相対的に給与の高い「専門的・技術的分野」の割合は、38.9%から42.1%へ上昇しました。
この構成変化も平均を押し上げ得るため、「全員の給与が6.4%上がった」とは断定できません。
勤続年数別では、1年未満が24万4,000円、5年以上10年未満が34万1,200円、15年以上が39万5,200円でした。
外国人であるかどうか以上に、経験を積み、役割が上がり、長く働ける仕組みを作れるかが給与水準に表れています。
給与より気になった「紹介費用」の問題

労働者調査では、現在の仕事でトラブルや困りごとが「ある」と答えた人は10.0%でした。
その人たちの回答で最も多かったのは、「紹介会社や送出し機関を含む費用が高かった」の22.2%です。これは外国人労働者全体の22.2%という意味ではない点に注意が必要ですが、前年の18.6%から上昇しています。
海外から就職した人の82.0%は、紹介会社や個人などから紹介を受けています。
受入れ企業が国内の紹介会社へ適正な費用を支払っていても、本人が母国側で多額の費用や借金を負っていることがあります。受入れ企業も無関係ではありません。
採用前に、本人が誰へいくら支払い、借金や違約金があるのかを確認する。
仕事内容、給与控除、日本語能力への期待を理解できる言語で説明し、相談先を明確にする。早期離職や失踪を防ぐためにも必要な確認です。
在留資格実務では「平均29万円」が審査基準になるわけではない

日本国内で働く外国人にも労働関係法令は適用されます。労働基準法第3条は、国籍を理由とする賃金その他の労働条件の差別的取扱いを禁止しています。
さらに、「技術・人文知識・国際業務」や特定技能では、日本人が同等の業務に従事する場合と同等額以上の報酬であることが在留資格上も求められます。
ただし、29万2,400円を超えれば許可され、下回れば不許可になるという制度ではありません。
比較対象となる日本人の職務、経験、技能、勤務地、企業の賃金規程などを踏まえて判断されます。
申請実務では、雇用契約書の数字だけでなく、賃金台帳や日本人従業員との比較、昇給の考え方まで確認される場面があります。「最低賃金を上回っているから問題ない」「手当や残業代を足せば平均を超えるから大丈夫」という整理は避けた方がよいでしょう。
個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
外国人雇用は「採る」より「選ばれ続ける」段階へ

企業が外国人を雇用する理由は、「労働力不足の解消・緩和」が68.2%で最多でした。
同時に、「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待」が56.2%に達しています。
人手不足だから採る。しかし、採用できたら終わりではありません。
給与の妥当性、評価の透明性、昇給とキャリアの見通し、日本語学習、住居や生活面の支援まで含めて、本人から選ばれ続ける職場を作る必要があります。
今回の29万2,400円は、単なる賃金上昇のニュースではありません。外国人雇用を低コストの穴埋めとして考える時代が終わりつつある。その変化を、数字が静かに伝えているように感じます。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、給与額だけでなく、実際の職務内容、日本人従業員との処遇の整合性、採用経路によっても結論が変わります。
採用条件や受入れ体制に迷う場合は、雇用契約を確定する前に専門家へ相談することをおすすめします。
記事末尾の整理
【結論】
外国人一般労働者の月例給与は前年比6.4%増の29万2,400円となりました。ただし、これは全員の昇給率でも、在留資格審査の基準額でもありません。企業には、職務と能力に見合う賃金、透明な評価、適正な採用経路、定着を見据えた支援が求められます。
【根拠】
厚生労働省「令和7年外国人雇用実態調査」、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」、労働基準法第3条、上陸基準省令に基づき整理しています。
【注意点・例外】
29万2,400円は一般労働者の2025年9月分の平均で、短時間労働者、手取り額、賞与込みの年収を示すものではありません。前年との比較は同一人物の追跡調査ではなく、在留資格や職種などの構成変化の影響を受けます。在留資格上の報酬要件は、個々の職務や比較対象となる日本人の処遇によって判断されます。
【出典】
一次情報
- 厚生労働省「令和7年外国人雇用実態調査」の結果を公表します(2026年8月31日)
- 厚生労働省「令和7年外国人雇用実態調査の概況」(2026年8月31日)
- 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)(2026年1月30日)
- e-Gov法令検索「労働基準法」第3条
- e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」
参考情報
- 日本経済新聞「外国人労働者の給与6.4%増 25年月29.2万円、賃上げ効果が波及」(2026年8月31日)
【確実性:高】
公表当日の厚生労働省資料、法令本文および調査方法・用語の定義を確認しているためです。平均値から個々の賃上げ状況を推定できない点は、統計上の限界として明示しています。
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