外国人のマンション取得規制は「当面見送り」へ
報道によれば、政府は外国人を対象にしたマンションなどの不動産取得規制について、当面見送る方針を固めたとされています。
一方で、安全保障上重要な土地取得については、重要土地等調査・規制法の改正により、規制強化を検討する方向とされています。
このニュースは、外国人政策、住宅価格、安全保障、不動産投資が一つに重なって見えるため、感情的な議論になりやすいテーマです。
ただ、行政書士として見ると、ここは少し分けて考える必要があります。
「外国人がマンションを買うこと」と、「安全保障上重要な土地の利用をどう管理するか」は、似ているようで制度の目的が異なります。
前者は住宅市場・投資・税制・都市政策の問題です。後者は、自衛隊施設、海上保安庁施設、原子力関係施設、国境離島などの機能を阻害する利用をどう防ぐかという、安全保障上の問題です。
現行制度では、外国人も原則として不動産を取得できる

日本では、外国人であることだけを理由に、一般のマンションや土地の取得を一律に禁止する制度は基本的にありません。
衆議院調査資料でも、民法第3条第2項により、外国人は法令または条約で禁止される場合を除き、日本国民と同様に私権を有すると整理されています。
また、外国人土地法は存在するものの、現在は関係政令が存在せず、実質的には機能していないとされています。
そのため、現行法の大きな枠組みとしては、外国籍の個人や外国法人であっても、日本国内の不動産を取得すること自体は可能です。
もちろん、これは「何の管理もない」という意味ではありません。農地については農地法上の許可が必要ですし、森林、一定規模以上の土地、重要土地等調査法上の区域など、それぞれ別の届出・許可・調査制度があります。
内閣官房資料でも、農地法、森林法、国土利用計画法、重要土地等調査法などが、土地取得に関する制度として整理されています。
重要土地等調査法は「外国人だけ」を対象にした制度ではない

今回の報道で重要なのは、政府が安全保障上重要な土地について、外国人だけを対象にするのではなく、国籍にかかわらず適用する方向で検討しているとされる点です。
重要土地等調査法は、正式には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」です。
内閣府は、同法について、重要施設周辺および国境離島等における土地等の利用状況を調査し、必要に応じて利用の規制等を行う法律と説明しています。
この法律では、区域が大きく「注視区域」と「特別注視区域」に分かれます。
特別注視区域内では、一定の土地等について所有権等の移転または設定をする契約を締結する場合、事前届出が必要になります。
内閣府の説明では、対象は特別注視区域内にある土地等で、土地は1筆ごと、建物は1個ごとに200平方メートル以上のものとされています。
ここで大切なのは、制度の着眼点が「誰が買うか」だけではなく、「どこの土地か」「どのように利用されるか」に置かれていることです。
外国人か日本人かという属性だけで線を引くよりも、重要施設の機能を阻害するおそれがある土地利用を把握・抑制する方が、制度としては実効性を持ちやすい。今回の報道も、その延長線上で読む必要があります。
なぜ外国人だけを対象にした規制は難しいのか

報道では、外国人を対象にした取引規制について、日本人の代理人を経由すれば回避できるため、実効性を保ちにくいとされています。
これは実務感覚としても理解できます。
不動産取引では、名義、法人、信託、出資関係、実質的支配者など、表面上の買主だけを見ても実態が分からない場面があります。
外国人本人を正面から規制しても、日本法人を設立する、日本人を代表者にする、親族や関係者を通じて取得する、といった形になれば、制度の網をすり抜ける可能性があります。
もう一つの論点が、国際約束との関係です。
日本はサービス貿易に関する一般協定、いわゆるGATSとの関係で、外国人だけを不利に扱う「内外差別」的な規制には慎重にならざるを得ないと指摘されています。
外国人による不動産取得に関する衆議院資料や研究資料でも、日本が外国人の土地・不動産取得について明確な留保をしていないことから、新たに外国人だけを対象とする土地所有規制を設ける場合、GATSとの関係が問題になり得ると整理されています。
もちろん、安全保障例外の議論はあります。ただ、これは簡単に「外国人だから禁止」と言える話ではありません。
制度設計としては、対象区域、対象行為、規制目的、比例性、実効性をかなり丁寧に詰める必要があります。
マンション価格高騰の問題と外国人規制は直結しない

都市部のマンション価格が高騰していることは、多くの人が実感している問題です。
特に東京の湾岸エリアや都心部では、一般の勤労世帯が新築マンションを買いにくくなっているという声もあります。
そのため、「外国人投資家が買っているから価格が上がっているのではないか」という受け止めが出るのは自然です。
ただし、ここは慎重に見る必要があります。
外国人によるマンション等取得が、どの程度価格上昇に影響しているのかについては、明確な調査結果が十分にあるとはいえません。
民間都市開発推進機構の研究報告でも、外国人によるマンション・土地取得が近年の価格上昇の原因であるか否かについて、明確な調査結果はないと整理されています。
価格高騰の背景には、建築費の上昇、用地取得費、人件費、金融環境、国内富裕層の投資、相続税対策、供給戸数、都市集中など、複数の要因があります。
外国人取得の実態把握は必要です。しかし、実態が分からないまま「外国人が買うから高い」と決めつけると、政策の方向を誤るおそれがあります。
行政書士として見える実務上のポイント

外国人の不動産取得をめぐる議論では、入管実務とも少し接点があります。
たとえば、経営・管理の在留資格を持つ外国人が事業拠点や住居を取得するケースがあります。高度専門職や永住者、日本人の配偶者等、定住者など、長期的に日本で生活する外国人が住宅を購入することもあります。
このような人たちは、日本で働き、納税し、地域社会の一員として暮らしている場合も少なくありません。
一方で、実態のない法人、投資目的だけの取得、管理不全の空き住戸、重要施設周辺の不透明な取得などについては、社会的な不安が生じやすい。ここを一緒くたにしてしまうと、本来守るべき地域の安全や住宅政策の議論が、単なる外国人一般への不信感に流れてしまいます。
実務上は、「外国人だから問題」ではなく、次の視点が大切です。
取得目的は何か。
誰が実質的に支配しているのか。
取得後に適切に管理されるのか。
安全保障上の重要区域に該当するのか。
地域住民の生活環境に影響があるのか。
この整理をせずに、国籍だけで議論すると、必要な規制も、不要な排除も、どちらも見えにくくなります。
今後は「実態把握」と「制度目的の切り分け」が焦点になる

今回の報道から見える政府の姿勢は、外国人のマンション取得を直ちに規制するのではなく、まずは安全保障上重要な土地の規制強化を優先し、外国人による取得の実態把握を進めるというものです。
これは、制度論としては現実的な方向だと思います。
不動産取得規制は、感情だけで設計できる制度ではありません。所有権、取引の自由、国際約束、経済安全保障、住宅政策、地方自治、税制が絡みます。少し乱暴に扱うと、必要な投資まで萎縮させたり、まじめに暮らしている外国人住民に不要な不安を与えたりするおそれもあります。
一方で、何もしなくてよいという話でもありません。
外国人による不動産取得の実態が分からないこと自体が、不安や憶測を広げています。だからこそ、まずは登記、税務、外為法、法人の実質的支配者情報などを通じて、正確なデータを把握することが重要です。
制度は、見えないものを恐れるためではなく、見える形にして冷静に管理するためにあります。
外国人の不動産取得問題も、まさにその段階に入っているのだと思います。
- 記事末尾の整理
【結論】
外国人のマンション取得規制は、報道ベースでは当面見送りの方向とされています。一方、安全保障上重要な土地については、重要土地等調査法の改正により、国籍にかかわらず規制を強化する方向で検討されているとみられます。外国人一般を問題視するのではなく、取得目的、実質的支配者、区域、利用実態を確認する制度設計が重要です。
【根拠】
現行法上、外国人も原則として日本国内の不動産を取得できます。重要土地等調査法では、重要施設周辺や国境離島等の土地利用状況を調査し、特別注視区域内の一定の土地等について事前届出を求めています。外国人だけを対象にした規制は、実効性やGATS上の内外無差別原則との関係で課題があります。
【注意点・例外】
農地、森林、大規模土地取引、重要土地等調査法上の区域では、それぞれ別途の許可・届出・調査制度があります。マンション価格高騰の原因を外国人取得だけに求めることは、現時点では根拠が十分とはいえません。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
内閣府「重要土地等調査法」
内閣府「届出について」
内閣官房「我が国の土地等に関連する制度及び運用状況等について」
衆議院調査資料「外国人による不動産取得に関する整理」
民間都市開発推進機構都市研究センター「我が国における外国人による土地取引の規制の系譜と今後の課題」
読売新聞オンライン「外国人のマンション取得、規制は当面見送り…政府は実態把握進め有効な対策検討する構え」2026年6月1日配信、参考情報
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