介護福祉科の新入生、9割超が外国人留学生という現実
福井新聞の報道によれば、福井県美浜町の若狭医療福祉専門学校介護福祉科では、今春入学した新入生34人のうち32人がフィリピンとネパールからの外国人留学生だったとされています。
数字だけを見ると、かなり印象的です。
「介護福祉士を目指す学生のほとんどが外国人留学生」という状況は、かつてであれば特別な事例として受け止められたかもしれません。
しかし、今の日本の介護現場を見ていると、これは決して一部の学校だけの話ではありません。
介護を志す日本人の若者が減り、地域の専門学校が学生募集に苦労する。一方で、日本で介護を学び、資格を取り、将来的に介護現場で働きたい外国人留学生が増えている。
この流れは、制度と現場の両方から見ていく必要があります。
在留資格「介護」がつくった一つの進路

外国人留学生が日本で介護福祉士を目指す流れを考えるうえで、重要なのが在留資格「介護」です。
厚生労働省によれば、在留資格「介護」は、我が国の介護福祉士養成施設を卒業して介護福祉士国家資格を取得した留学生が、日本国内で介護福祉士として介護又は介護の指導を行う業務に従事できるようにするため、平成29年9月1日から施行されました。
令和2年4月1日からは、実務経験を経て介護福祉士国家資格を取得した人も、在留資格「介護」への移行対象となっています。
これは、外国人にとって非常に大きな意味があります。
「日本語学校で学ぶ」
「介護福祉士養成施設に進学する」
「介護福祉士資格を取得する」
「在留資格『介護』で日本の介護現場で働く」
こうした進路が制度上、かなり明確になったからです。
もちろん、実際には日本語能力、学費、生活費、国家試験、就職先、在留資格変更の手続など、乗り越えるべき壁は少なくありません。
それでも、将来像が描けるという意味では、在留資格「介護」の創設は、介護福祉士を目指す外国人留学生にとって大きな後押しになりました。
介護分野は「外国人労働者」ではなく「専門職」を育てる段階に入っている

外国人介護人材というと、どうしても「人手不足を埋める労働力」という見方をされがちです。
しかし、介護福祉士養成施設で学ぶ留学生については、単なる労働力として見るべきではありません。少なくとも制度上は、介護の専門性を学び、国家資格を取得し、日本の介護現場で専門職として働くことが想定されています。
ここはとても大事です。
介護は、食事、入浴、排せつの介助だけではありません。利用者の尊厳、認知症への理解、家族との関係、看取り、チームケア、記録、事故防止など、人の生活と人生に深く関わる仕事です。
言葉の壁もあります。文化の違いもあります。高齢者との会話では、方言や昔の生活習慣の理解が必要になることもあります。
だからこそ、学校の役割は重くなります。
授業で介護技術を教えるだけでは足りません。日本語、生活支援、国家試験対策、就職支援、在留資格の理解、メンタル面のフォローまで含めて、かなり広い支援が必要になります。
行政書士として見ても、ここを軽く見ている学校や受入れ機関は、後で必ず苦労します。
介護福祉士養成施設ルートには経過措置もある

介護福祉士養成施設を卒業する外国人留学生については、国家試験との関係も重要です。
内閣府地方創生推進事務局の資料では、介護福祉士養成施設の卒業生について、平成29年度から国家試験合格が法律上必要となっている一方、令和8年度までの卒業生には経過措置が設けられていると整理されています。
具体的には、卒業後5年間は国家試験を受験しなくても介護福祉士資格を取得可能であり、卒業後6年目以降も、卒業後5年間継続して介護等の業務に従事していれば、引き続き資格を取得できるとされています。
ただし、この点は読者に誤解してほしくありません。
経過措置があるからといって、国家試験対策を軽く見てよいわけではありません。むしろ、介護福祉士として長く日本で働き、職場で信頼されるためには、専門知識と日本語での理解力が不可欠です。
特に外国人留学生の場合、試験問題の日本語そのものが大きな壁になります。介護の内容を理解していても、問題文の表現でつまずくことがある。これは現場でもよく聞く話です。
学校側には、単なる合格対策ではなく、「日本語で介護を理解する力」を育てる姿勢が求められます。
地域の介護を支える一方で、学校経営の問題も見えてくる

今回の報道で印象的なのは、介護福祉科だけでなく、同じ学校法人が運営する調理師科や理学療法科の募集停止にも触れられている点です。
つまり、これは外国人留学生の話であると同時に、地方の専門学校経営の話でもあります。
若者の数が減る。地元で専門職を目指す日本人学生が減る。学校は定員を満たすことが難しくなる。地域の介護施設は人材不足に悩む。
その中で、外国人留学生の受入れが、学校と地域介護の両方を支える仕組みになっている。
これは前向きな面もあります。
外国人留学生が地域に入り、学び、就職し、介護現場を支える。地域にとっては大切な人材です。本人にとっても、日本で専門職としてキャリアを築ける可能性があります。
ただし、少し厳しい言い方をすれば、「日本人学生が集まらないから外国人留学生で補う」という発想だけでは危ういです。
留学生は、学校経営を支えるための人数合わせではありません。介護現場の人手不足を埋めるための一時的な労働力でもありません。
一人ひとりが、学費を払い、生活し、将来をかけて日本に来ています。その重さを、学校も施設も地域も受け止める必要があります。
在留資格実務で注意すべきポイント

介護福祉士を目指す外国人留学生について、在留資格実務上は注意すべき点がいくつもあります。
まず、在学中は基本的に在留資格「留学」です。
資格外活動許可を得てアルバイトをする場合でも、原則として週28時間以内の制限があります。介護施設でアルバイトをしている場合でも、「介護を学んでいるから何時間でも働ける」というわけではありません。
次に、卒業後に在留資格「介護」へ変更するには、介護福祉士資格の取得・登録、就職先での活動内容、雇用契約、報酬水準などを確認する必要があります。
形式上「介護施設で働く」だけでは足りず、在留資格に該当する活動であることが必要です。
また、学校が留学生を多数受け入れる場合、出席状況、成績、資格外活動の状況、生活面の支援、卒業後の進路管理も重要になります。留学生の管理がずさんになると、学校全体の信頼にも関わります。
最近は、留学ビザをめぐる運用も適正化・厳格化の流れが強まっています。学校側は「学生本人の問題」として切り離すのではなく、受入れ機関としての管理責任を意識する必要があります。
外国人介護人材に頼るなら、地域も変わらなければならない

出入国在留管理庁の令和7年6月末時点の統計では、在留外国人数は395万6,619人となり、過去最高を更新しています。在留資格別では、「留学」が435,203人、「特定技能」が336,196人とされています。
日本社会の中で、外国人が学び、働き、生活することは、もう特別なことではなくなりつつあります。
介護分野は、その変化が非常にわかりやすく表れている分野です。
ただ、制度を作れば自然に共生が進むわけではありません。
外国人留学生が地域で暮らすには、住まい、交通、医療、相談相手、宗教・文化への理解、日本語学習の継続など、生活の土台が必要です。
介護施設側にも、外国人職員を受け入れるための体制が求められます。指導担当者を決める、やさしい日本語を使う、記録や申し送りのルールを整える、ハラスメントを防ぐ、キャリアアップの道筋を示す。
これは「外国人に合わせる」というより、職場全体を働きやすくする取り組みに近いと感じます。
日本人職員にも、外国人職員にも、同じように伝わりやすい職場。そうした職場は、結果として離職防止にもつながるはずです。
介護福祉士を目指す留学生をどう育てるか

今回のように、介護福祉科の新入生の大多数が外国人留学生になると、学校の雰囲気そのものも変わります。
授業の進め方も、日本語支援も、実習先との調整も、これまでと同じでは難しくなるでしょう。
一方で、これは地域にとって大きな可能性でもあります。
福井県のような地方で、外国人留学生が介護を学び、地域の施設に就職し、長く働いてくれるなら、それは地域福祉を支える重要な循環になります。
問題は、その循環を本当に持続可能なものにできるかどうかです。
学校が学生を集める。施設が人材を採用する。行政が制度を整える。専門家が在留資格や労務管理を支える。地域住民が外国人の存在を日常として受け止める。
どれか一つが欠けると、外国人留学生本人に負担が集中します。
介護の仕事は、人を支える仕事です。だからこそ、介護を学ぶ外国人留学生自身も、社会から支えられる必要があります。
この視点を忘れてはいけないと思います。
行政書士として感じること

在留資格の相談を受けていると、外国人本人は本当に真剣です。
「日本で働きたい」
「家族を支えたい」
「資格を取りたい」
「長く日本に住みたい」
そうした希望を持って来日しています。
一方で、制度は簡単ではありません。留学、資格外活動、国家資格、就職、在留資格変更、更新。どこかでつまずくと、本人の人生設計が大きく変わります。
介護福祉士を目指す外国人留学生が増えること自体は、私は前向きに受け止めています。ただし、それは「安い人材が来てくれる」という話ではありません。
日本の介護を支える専門職を、外国人と一緒に育てていくという話です。
そこには、制度への理解と、現場の覚悟が必要です。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、学校の受入れ体制、本人の在留状況、資格取得の見込み、就職先での業務内容によって結論が変わることがあります。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 記事末尾の整理
【結論】
介護福祉科で外国人留学生が大多数を占める状況は、単なる珍しいニュースではなく、日本の介護人材不足、地方専門学校の学生確保、在留資格「介護」の制度設計が重なって生じている現実です。外国人留学生を人数合わせとして見るのではなく、地域介護を支える専門職として育てる体制づくりが必要です。
【根拠】
在留資格「介護」は、介護福祉士養成施設を卒業して介護福祉士国家資格を取得した留学生が、日本国内で介護又は介護の指導を行う業務に従事できるよう創設され、平成29年9月1日から施行されています。令和2年4月1日からは実務経験ルートで介護福祉士国家資格を取得した人も対象となっています。
介護福祉士養成施設卒業者については、国家試験義務付けに関する経過措置が令和8年度卒業生まで設けられているとされています。
令和7年6月末時点の在留外国人数は395万6,619人で過去最高を更新し、在留資格別では「留学」435,203人、「特定技能」336,196人と公表されています。
【注意点・例外】
在学中の外国人留学生は、原則として在留資格「留学」であり、資格外活動許可を得て働く場合も週28時間以内の制限があります。
在留資格「介護」への変更には、介護福祉士資格の取得・登録、就職先での業務内容、報酬、雇用契約などの確認が必要です。
介護福祉士養成施設ルートの経過措置については、今後の制度改正や運用変更により影響を受ける可能性があります。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
厚生労働省「介護福祉士資格を取得した外国人の方に対する在留資格『介護』の付与について」
出入国在留管理庁「令和7年6月末現在における在留外国人数について」
内閣府地方創生推進事務局資料「外国人介護人材の受入れに関する制度の現況について」
参考情報
福井新聞「介護福祉科の新入生、9割超が外国人留学生 志す日本人減、国の受け入れ方針も影響 福井県の若狭医療福祉専門学校」2026年5月10日配信
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