外国人材確保で広がる「自治体MOU」――これは単なる国際交流ではない
外国人材の確保を目的に、地方自治体が海外政府、大学、企業などとMOUを結ぶ動きが広がっています。
MOUとは、Memorandum of Understandingの略で、日本語では「覚書」と訳されます。条約や契約のように強い法的拘束力を持つものとは限りませんが、自治体と海外側が「この分野で協力していきましょう」と確認する文書です。
今回共有いただいた記事では、47都道府県と20政令指定都市を対象にしたアンケートで、4割超の自治体が外国人材確保を目的としたMOUを締結済みとされています。
特に相手国としてはベトナムが多く、インドネシア、インドなどにも広がっているとのことです。
この動きは、単なる国際交流ではありません。地方の企業、介護施設、農業法人、製造業、IT企業にとって、外国人材をどう確保するかが地域経済そのものの課題になっていることを示しています。
厚生労働省の「外国人雇用状況」によれば、令和7年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、届出義務化以降、過去最多となっています。
国籍別ではベトナムが最多で60万5,906人、在留資格別では「専門的・技術的分野の在留資格」が86万5,588人とされています。外国人材は、もはや一部の業種だけの話ではありません。
なぜ自治体がMOUを結ぶのか

地方にとって、人材確保は「企業任せ」では限界に来ている
これまで外国人材の採用は、企業、監理団体、登録支援機関、人材紹介会社などが中心となって動くことが多かったと思います。
しかし、今はそれだけでは足りなくなっています。
たとえば、地方企業が海外人材を採用しようとしても、都市部の企業と比べて知名度、給与水準、生活利便性、日本語教育環境、家族帯同後の生活支援などで不利になる場面があります。
外国人本人から見れば、「どこの会社で働くか」だけでなく、「どの地域で暮らすか」も大きな判断材料です。
そのため、自治体が前面に出て、相手国の政府機関や大学、教育機関と関係を作り、地域ぐるみで受入れ環境を整える動きが出てきているわけです。
ベトナム一極集中から、多国籍化へ
記事では、MOUの相手国としてベトナムが最多とされています。
これは自然な流れです。日本の外国人労働者数でもベトナムは最多であり、技能実習、特定技能、技人国など幅広い在留資格で存在感があります。
ただし、現場感覚としては、ベトナムだけに依存する採用戦略は少しずつ難しくなっています。
ベトナム国内の経済成長、韓国・台湾・オーストラリアなど他国との人材獲得競争、送り出しコストへの問題意識、日本側の待遇への厳しい目線。こうした要素が重なり、以前のように「募集すれば来てくれる」という時代ではなくなっています。
そのため、自治体がインドネシア、インド、ネパール、モンゴル、フィリピン、スリランカなどへ相手先を広げていることは、実務上も非常に自然な流れだと感じます。
MOUがあっても、在留資格の審査が緩くなるわけではない

ここは企業側が誤解してはいけない点です。
自治体が海外機関とMOUを結んでいるからといって、在留資格の許可が保証されるわけではありません。
特定技能であれば、技能試験・日本語試験、受入れ機関の基準、支援体制、雇用契約の内容、報酬の同等性などが審査されます。
出入国在留管理庁は、特定技能制度について運用要領や申請書類、分野別情報を公表しており、申請はあくまで制度上の要件に沿って審査されます。
技術・人文知識・国際業務であれば、学歴・職歴と業務内容の関連性、専門性、報酬、雇用の安定性が問われます。
留学生を介護系専門学校などに受け入れ、将来的に介護人材として育成する場合でも、留学段階では学費・生活費の支弁能力、在学管理、卒業後の進路の妥当性が問題になります。
MOUは、入口づくりとしては有効です。しかし、在留資格申請の審査を代替するものではありません。
育成就労制度の導入で、地方の危機感はさらに強まる

記事中でも触れられているように、2027年に導入予定の育成就労制度では、一定の要件のもとで本人意向による転籍が認められる方向です。
出入国在留管理庁のQ&Aでも、育成就労外国人の受入れ機関変更、いわゆる転籍について説明されています。従来の技能実習制度よりも、外国人本人のキャリア選択が制度上も重視される流れです。
これは、良い面もあります。
不適切な受入れ先に人材を縛り付けるのではなく、よりよい職場へ移る選択肢を認めることは、制度の健全化につながります。
一方で、地方企業にとっては厳しい現実もあります。
せっかく採用して育成しても、待遇、住環境、人間関係、将来性に不満があれば、都市部や条件の良い企業へ移ってしまう可能性が高まります。
つまり、これからの外国人材確保は「採用できるか」だけではなく、「選ばれ続けるか」が本質になります。
企業がMOUを活用する際に見るべきポイント

自治体がMOUを結んでいる場合、企業にとってはチャンスです。
ただし、単に「自治体がルートを作ってくれるなら安心」と考えるのは危険です。
企業側が確認すべきなのは、たとえば次のような点です。
どの在留資格を想定しているのか。
誰が求人・面接・内定後のフォローを担うのか。
日本語教育や生活支援はどこまで用意されているのか。
登録支援機関、監理団体、職業紹介事業者の関与は適法か。
採用後の転籍・離職リスクにどう対応するのか。
特に注意したいのは、MOUと実際の雇用契約、在留資格申請、支援義務が別物である点です。
自治体が関与しているからといって、企業側の雇用管理責任が軽くなるわけではありません。むしろ、地域の看板を背負った受入れになる分、不適切な雇用や支援不足が起きた場合の社会的影響は大きくなります。
行政書士の現場感覚として思うこと

外国人材のMOUが広がること自体は、前向きな動きだと思います。
特に地方では、個別企業が単独で海外に採用ルートを作るのは簡単ではありません。自治体が現地政府や大学と関係を作り、日本語教育、生活支援、地域定着まで含めて設計することには意味があります。
ただ、少し気になるのは、MOUが「人材確保の魔法のカード」のように見えてしまうことです。
外国人材は、労働力である前に生活者です。
どの地域で暮らすのか。
日本語を学べる場所はあるのか。
家賃は払えるのか。
職場で孤立しないか。
家族を呼ぶ将来像があるのか。
こうした部分が整っていなければ、どれだけ立派なMOUを結んでも、定着にはつながりません。
外国人材獲得競争は、国と国の競争であり、自治体と自治体の競争であり、最後は企業と企業の競争です。
その競争の中で選ばれるのは、単に求人票を出す企業ではなく、「ここで働きたい」「ここで暮らしたい」と思ってもらえる環境を整えた企業だと思います。
MOU時代の外国人雇用で大切な視点

MOUの広がりは、外国人材の受入れが新しい段階に入ったことを示しています。
これまでは、制度を知っている企業が先行して外国人材を採用していました。これからは、地域全体で受入れの仕組みを作り、その中で企業がどれだけ誠実な雇用管理と支援を行えるかが問われます。
特定技能、技人国、留学、育成就労。どの制度を使うにしても、在留資格の要件と実際の働き方がずれていれば、申請上も雇用管理上もリスクになります。
自治体MOUは入口です。
その先にある在留資格設計、採用手続、雇用契約、支援体制、定着支援まで整えてはじめて、地域にとって意味のある外国人材受入れになります。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容、雇用管理、支援体制によって結論が変わることがあります。MOUを活用した採用や自治体連携を検討する場合は、早い段階で専門家に確認することをおすすめします。
記事末尾の整理
【結論】
自治体による外国人材確保MOUの広がりは、地方の人手不足が企業単位ではなく地域全体の課題になっていることを示している。ただし、MOUは在留資格許可や採用成功を保証するものではなく、企業側には制度理解、適正な雇用管理、支援体制、定着施策が求められる。
【根拠】
厚生労働省の令和7年10月末時点の外国人雇用状況では、外国人労働者数が過去最多の257万1,037人となっている。
出入国在留管理庁は、特定技能制度について運用要領、申請書類、分野別情報を公表している。
育成就労制度では、一定の要件のもとで受入れ機関変更、いわゆる転籍が制度上整理されている。
【注意点・例外】
MOUの内容は自治体ごとに異なり、法的拘束力や具体的な支援範囲も一律ではない。
MOUがあっても、在留資格の許可が保証されるわけではない。
職業紹介、登録支援、監理支援、教育機関の関与には、それぞれ別の法令・制度上の確認が必要になる。
個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要。
【出典】
一次情報
厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 令和7年10月末時点
出入国在留管理庁「特定技能制度」
出入国在留管理庁「特定技能運用要領」
出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
参考情報
ユーザー提示記事「外国人材の獲得へ広がる『MOU』 海外政府や企業、大学と協力する約束、都道府県と政令市の4割超が締結」
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