この記事のポイント
在留カードは、単なる身分証明書ではありません。
日本での在留資格、在留期間、就労可否、本人性を確認するための重要な公的カードです。
今回報道された事件では、国際犯罪組織の幹部とみられる人物が、自身の在留カードを他人に渡し、本人になりすまして印鑑登録手続きが行われた疑いがあるとされています。
報道によれば、本人は2023年に高度専門職の在留資格を取得していたともされています。
現時点ではあくまで容疑段階であり、刑事責任の有無は今後の捜査・裁判で判断されるべきものです。
ただ、在留実務の視点から見ると、この事件はかなり重要です。
なぜなら、「高度専門職」や「永住」をめぐる制度の優遇が、本人性・活動実態・素行の確認と切り離せないことを、改めて示しているからです。
在留カードは「貸してはいけない」カードである

在留カードについて、現場では「本人確認書類の一つ」と軽く見られることがあります。
銀行口座、携帯電話、賃貸借契約、雇用時の確認、行政手続きなど、日常のさまざまな場面で提示を求められるため、運転免許証やマイナンバーカードに近い感覚で扱われがちです。
しかし、入管法上の在留カードは、外国人の在留管理の中心にあるカードです。
入管法第73条の6は、他人名義の在留カードを行使した者、行使目的で他人名義の在留カードを提供・収受・所持した者、行使目的で自己名義の在留カードを提供した者について、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金の対象としています。
ここで大切なのは、「偽造カードではないから大丈夫」ではないという点です。
本物の在留カードであっても、他人が使えば問題になります。むしろ本物のカードだからこそ、行政手続きや契約手続きがすり抜けてしまう危険があります。
実務上も、在留カードを友人や知人に預ける、手続きのために一時的に渡す、代理で何かをしてもらうといった場面には注意が必要です。
本人のためにやったつもりでも、カードの使われ方によっては、入管法違反や他の犯罪に発展する可能性があります。
なぜ「印鑑登録」が問題になるのか

今回の報道では、他人名義の在留カードを使い、本人になりすまして印鑑登録手続きが行われた疑いがあるとされています。
印鑑登録は、日本の取引社会では重い意味を持ちます。
不動産取引、会社設立、役員変更、金融取引、委任状作成など、実印と印鑑登録証明書が使われる場面は少なくありません。
外国人の在留手続きだけを見ていると、「在留カードの不正使用」と聞いても、就労確認や入管申請だけの問題に見えるかもしれません。
しかし、在留カードを入口にして、住民登録、印鑑登録、会社関係手続き、金融取引へ広がることがあります。
行政書士として怖いと感じるのは、ここです。
在留カードは、入管手続きの世界だけで完結していません。
市区町村、金融機関、会社法務、税務、社会保険、賃貸契約など、生活と事業のインフラに接続しています。
本人確認が一度崩れると、その先の手続き全体がゆがみます。
「高度専門職」でも、永住が保証されるわけではない

報道では、容疑者が高度専門職の在留資格を取得していたとされています。
高度専門職は、学歴、職歴、年収、研究実績、経営実績などを点数化し、一定以上のポイントを満たす外国人材を優遇する制度です。
入管庁の説明でも、高度専門職1号は、日本の学術研究や経済発展に寄与する高度な能力を持つ外国人の受入れを促進するため、活動制限を緩和した在留資格とされています。
高度専門職には、永住申請における在留年数の短縮という大きなメリットがあります。
入管庁の永住許可申請案内では、高度人材外国人はポイント計算で70点以上を有する外国人とされ、80点以上の場合や70点以上の場合について、それぞれ永住申請上の特例的な扱いが示されています。
ただし、ここで誤解してはいけません。高度専門職は「永住への自動切替券」ではありません。
永住許可では、在留年数だけでなく、素行、独立生計、公的義務の履行、日本国の利益に合するかといった要素が総合的に見られます。
高度人材としてのポイントが高くても、活動実態が不明確であったり、虚偽の届出・不正な本人確認・犯罪関与が疑われたりすれば、当然ながら審査上の重大なマイナス要素になります。
今回の事件報道が示しているのは、「高度な経歴」や「高い年収」だけでは、在留管理上の信頼は完成しないということです。制度は能力を評価しますが、同時に、日本社会で適正に在留しているかも見ています。
国際犯罪組織と在留資格制度の接点

報道では、プリンス・グループについて、米英両国から制裁を受けている組織とされています。
米国財務省は2025年10月、プリンス・グループを東南アジアのオンライン詐欺や資金洗浄に関わる国際犯罪組織として制裁対象にしたと公表し、2026年6月にも関連個人・法人への追加制裁を発表しています。
英国政府も2025年10月、東南アジアの詐欺拠点を運営するネットワークに対し、米国と連携して制裁を行ったと発表しています。
もちろん、日本の在留資格制度は、外国人全体を疑うための制度ではありません。
多くの外国人は、まじめに働き、学び、事業を営み、日本社会の一員として生活しています。
一方で、国際的な犯罪ネットワークが、日本の住民登録、法人制度、不動産、金融、在留資格制度を利用しようとする可能性は現実にあります。
ここを感情論で語るのではなく、制度運用の問題として冷静に見なければなりません。
実務では、外国人本人だけでなく、企業、士業、支援機関、自治体、金融機関も、本人確認と実態確認の精度を上げていく必要があります。形式的に在留カードのコピーを取るだけでは足りません。
誰が、どこで、どの活動を行い、どの住所を生活拠点としているのか。基本的なことですが、ここが最も重要です。
企業・支援者が注意すべきこと

外国人雇用の場面では、在留カードの確認は必須です。
ただし、カードを見たという事実だけで安心するのは危険です。
在留カードの表面・裏面、就労制限の有無、在留資格、在留期限、資格外活動許可の有無を確認する。必要に応じて在留カード等読取アプリでIC情報を確認する。
本人の顔写真、旅券、履歴、住所、雇用契約内容との整合性を見る。ここまでを一連の確認として考える必要があります。
ただ、今回のように「本物の在留カードを他人が使う」ケースでは、カードの真偽確認だけでは不十分です。
写真と本人の照合、面談時の違和感、住所や連絡先の整合性、過去の在留経歴の確認が重要になります。
特に、会社設立、代表者就任、不動産契約、印鑑登録、銀行口座開設などが絡む案件では、単なる在留資格確認では足りません。
本人が本当にその事業を行うのか。住所に生活実態があるのか。資金の出所や流れに不自然な点はないか。行政書士としても、書類作成の前に立ち止まるべき場面があります。
制度の信頼を守ることは、まじめな外国人を守ることでもある

この種の事件が報道されると、外国人全体に対する不安や不信が広がりやすくなります。
しかし、実務に関わる立場としては、そこは慎重であるべきです。
問題にすべきなのは「外国人であること」ではなく、「在留カードや行政手続きを不正に利用すること」です。
ここを取り違えると、まじめに在留している外国人、適正に雇用している企業、地域で支援している人たちまで萎縮してしまいます。
在留資格制度は、信頼を前提に動いています。
申請書に書かれた活動内容が本当であること。住民登録の住所に実態があること。本人が本人として手続きをしていること。その一つひとつが積み重なって、在留管理は成り立っています。
だからこそ、在留カードの貸し借りや名義の使い回しは、軽く見てはいけません。
たった一枚のカードの問題に見えて、実際には日本での生活基盤、事業活動、永住審査、さらには社会全体の制度信頼に関わる問題です。
まとめ

今回の事件は、まだ容疑段階であり、報道内容だけで個人の刑事責任を断定することはできません。
ただ、在留実務の観点からは、非常に重要な警鐘です。在留カードは本人だけが使うものです。高度専門職であっても、永住が自動的に認められるわけではありません。
本人性、活動実態、素行、公的義務、社会的信用がそろって初めて、在留資格制度の中で安定した評価につながります。
外国人本人、企業、支援者、士業のいずれにとっても、在留カードの管理と本人確認は、いままで以上に丁寧に扱うべきテーマになっています。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容、住所実態、雇用管理、本人確認の状況によって結論が変わることがあります。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 記事末尾の整理
【結論】
在留カードの貸与・他人名義使用は、偽造カードでなくても重大な入管法違反となり得ます。高度専門職の在留資格を持っていても、永住許可が保証されるわけではなく、本人性、活動実態、素行、公的義務の履行が重要です。
【根拠】
入管法第73条の6は、他人名義の在留カードの行使、行使目的での提供・収受・所持、自己名義カードの提供を罰則対象としています。
入管庁は、高度専門職1号について、高度な能力を持つ外国人の受入れ促進を目的とする在留資格であり、ポイント計算で一定点数以上に達することを要件としています。
入管庁の永住許可申請案内では、高度人材外国人をポイント計算70点以上の外国人とし、80点以上・70点以上の場合の永住申請上の扱いを示しています。
報道では、フー・シー容疑者が自身の在留カードを他人に渡し、印鑑登録手続きに使わせた疑いがあるとされていますが、現時点では容疑段階です。
【注意点・例外】
本件は刑事事件としては容疑段階であり、有罪が確定したものではありません。
高度専門職のポイントがあることと、永住許可が認められることは別問題です。
在留カードが本物であっても、他人が使えば入管法違反となり得ます。
企業の本人確認では、カードの真偽確認だけでなく、本人の顔、旅券、住所、活動内容、雇用契約との整合性まで確認する必要があります。
個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
出入国管理及び難民認定法第73条の6
出入国在留管理庁「在留資格『高度専門職』(高度人材ポイント制)」
出入国在留管理庁「永住許可申請4」
米国財務省 OFAC プリンス・グループ関連制裁公表資料
英国政府 プリンス・グループ関連制裁公表資料
参考情報
TBS NEWS DIG 2026年7月5日配信記事
FNNプライムオンライン 2026年7月6日配信記事
ユーザー提示の産経新聞 2026年7月5日配信記事
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