入管庁が退去強制手続中の外国人情報を自治体へ提供
時事通信は2026年8月11日、出入国在留管理庁が、退去強制手続中で入管施設の外に暮らす外国人について、氏名、住所、国籍、生年月日などの情報を居住先の自治体へ提供する取組を始めたと報じました。
報道によれば、2026年6月末時点の対象者について7月に通知し、転居や帰国などによる変更情報も今後毎月提供するとのことです。
「強制退去の外国人情報を自治体へ」という見出しだけを見ると、自治体が送還業務に加わるようにも読めます。ただ、制度の背景をたどると、これは在留管理だけの話ではありません。
自治体が教育、保健、相談などにつなぐための基礎情報を持てず、目の前で生活している人を行政上把握しにくかったという問題への対応でもあります。
この記事のポイント

・今回の中心は、入管側から自治体へ情報を送る「プッシュ型」の提供です。
・情報が共有されても、在留資格が付与されたり、退去強制手続が止まったりするわけではありません。
・支援につなげる効果と、在留管理・個人情報保護の課題を分けずに見る必要があります。
従来も情報提供はあったが、本人同意などが前提だった

被仮放免者については、全く情報共有が行われていなかったわけではありません。
2012年の法務省通知では、本人が同意した場合、国籍、氏名、性別、生年月日、住居、仮放免や住居変更などの情報を市町村へ通知し、「行政上の便益・サービスの付与」のために活用する仕組みが示されていました。
その後は、市区町村から照会があった場合にも情報提供が行われていたと政府資料に記載されています。
それでも、本人の同意が得られない、自治体が対象者の存在を知らず照会できない、といった空白が残ります。
2026年1月決定の総合的対応策と、7月公表の出入国在留管理基本計画は、入管庁が把握する被仮放免者等の情報を市区町村へプッシュ型で提供する方針を明記しました。
今回の報道は、その運用が7月に始まったことを伝えるものです。
報道内容どおりであれば、制度上の大きな変化は「本人から申し出なければ自治体に届かない情報」から、「入管が把握した情報を自治体へ継続的に送る仕組み」へ進んだ点にあります。
「退去強制手続中」は、直ちに送還されるという意味ではない

ここは誤解されやすいところです。
法律上の用語は「退去強制」であり、対象となったからといって、その日に国外へ送還されるわけではありません。
入管庁の説明では、違反調査、違反審査、口頭審理などを通じて事実関係や本人の事情を確認します。
退去強制事由に該当する場合でも、在留特別許可を申請し、日本での生活歴、家族関係、子どもの状況などを含む個別事情について判断を受ける場合があります。
手続中に施設外で生活する仕組みが「仮放免」と「監理措置」です。
仮放免は、健康上、人道上その他これらに準ずる理由から収容を一時的に解く措置です。
監理措置は、監理人による監理の下、収容せずに退去強制手続を進める制度で、2024年6月に運用が始まりました。
どちらも「在留資格が与えられた」という意味ではなく、住居、行動範囲、出頭、就労などに条件や制限が付くことがあります。
今回の自治体への情報提供も、これらの法的地位や条件を変更するものではありません。
支援のための共有と、管理のための共有

自治体が居住実態を把握できれば、子どもの就学、母子保健、予防接種、生活相談、災害時の連絡など、必要な窓口へつなぎやすくなる可能性があります。
住民票だけを頼りにしていると、地域で生活していても行政から見えにくい人が生まれるからです。
一方、政府の基本計画は、被仮放免者等の条件違反への対応や、自治体が抱える問題を把握して国として対応を検討することにも触れています。
つまり、この情報共有には「支援」と「管理」の両方の目的が含まれていると読むべきでしょう。
私は、所在を把握すること自体には一定の合理性があると考えます。
ただし、氏名、住所、国籍、生年月日という情報は、本人の生活に直接影響する重要な個人情報です。
自治体内部で誰が閲覧できるのか、何の業務に利用できるのか、保存期間、誤情報の訂正、庁内での二次利用をどう制限するのか。この部分が曖昧なままでは、支援を求める人が行政窓口を避ける逆効果も考えられます。
2026年8月11日時点で、今回の通知に関する詳細な実施要領や、情報の利用範囲を示す新たな公開資料は確認できませんでした。
ここは、わからない部分として今後の公表を待つ必要があります。
実務では「自治体に伝わるから大丈夫」と考えない

被仮放免者や被監理者が転居する場合、今回の情報連携とは別に、入管への申請・届出、監理人への連絡など、個別に課された手続を守る必要があります。
自治体への通知が本人の手続を代行するわけではありません。
就労についても同様です。仮放免中で就労可能な在留資格を持たない人は、原則として働くことができません。
監理措置では、退去強制令書の発付前に限り、主任審査官から報酬を受ける活動の許可を受けられる場合がありますが、自動的に就労できる制度ではありません。
企業側も、自治体が把握していることを「雇用してよいこと」の根拠にしてはいけません。
情報共有が進むほど、住所変更、出頭、就労などの事実関係は複数の行政機関で照合されやすくなります。
本人、家族、支援者は、現在どの段階の手続にあり、どの条件が付されているのかを改めて確認しておくことが大切です。
情報共有の成否は、自治体がどう使うかで決まる

入管庁の2025年統計では、年末時点の被仮放免者は2,429人、被監理者は1,546人でした。
退去強制手続または出国命令手続を執られた外国人は、2025年中に1万8,442人です。
ただし、この三つの数字は集計時点や対象範囲が異なり、単純に足したり、同じ集団だと理解したりすることはできません。
今回の取組を「外国人管理の強化」とだけ捉えるのも、「行政サービスにつなぐための改善」とだけ捉えるのも、どちらも一面的です。
情報が、子どもや病気を抱える人を必要な支援へつなぐのか。それとも、目的や範囲が不明確なまま管理だけが先行するのか。制度の評価は、これからの自治体運用と情報公開を見なければ判断できません。
在留管理が厳格化する局面ほど、制度の対象者を一括りにしないことが必要です。
「退去強制手続中」という言葉だけでは、その人がどの段階にいて、どのような家族事情や人道上の事情を抱えているのかまでは分かりません。
行政には正確な把握が求められます。同時に、把握した情報を慎重に扱う責任もあります。
退去強制手続や在留特別許可は、手続の段階と個別事情によって対応が変わります。
本人や家族の在留状況をどう整理すべきか迷う場合は、早い段階で行政書士や弁護士など適切な専門家へ相談することをおすすめします。
記事末尾の整理
結論
入管庁から自治体へのプッシュ型情報提供は、所在把握の空白を埋め、必要な行政サービスへつなぐ可能性がある一方、在留管理の強化にも用いられる仕組みです。目的、利用範囲、訂正手続などの透明性が不可欠です。
根拠
・出入国在留管理基本計画は、2026年7月に被仮放免者等の情報を市区町村へプッシュ型で提供する方針を明記しています。
・政府の総合的対応策は、従来の本人同意または市区町村からの照会に基づく提供から、プッシュ型提供へ進める方針を示しています。
・入管庁の2025年統計では、年末時点の被仮放免者2,429人、被監理者1,546人などが公表されています。
注意点・例外
・情報提供だけで在留資格が付与されることはなく、退去強制手続も当然には停止しません。
・仮放免と監理措置では、法的な位置付け、条件、就労の可否が異なります。
・具体的な通知対象、自治体内部での利用範囲、保存期間などは、今後公表される実施資料の確認が必要です。
・個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
出典
一次情報
・令和7年における入管法違反事件について(出入国在留管理庁)
参考情報
・「入管庁、強制退去の外国人情報を自治体に提供」(時事通信、2026年8月11日)
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