この記事のポイント

- 在留資格は、雇用契約書の存在ではなく、実際の就労活動に基づいて判断される
- 虚偽の雇用関係を利用した申請は、在留資格取消しや刑事責任につながる可能性がある
- 今回の事件は刑事告発・捜査段階であり、有罪が確定したものではない
「在留資格取得の相談に乗る」と外国人を勧誘か

2026年8月10日、産経新聞は、東京国税局から東京地検特捜部に刑事告発された東京都内のシステム開発会社が、中国の通信アプリを通じて、日本の在留資格取得の便宜を図ることをにおわせ、協力者を集めていた疑いがあると報じました。
報道によれば、会社側は応募してきた延べ200人近くの中国人に銀行口座を開設させ、給与名目で金銭を振り込んだ後、会社側で引き出していたとされています。
これにより、多数の外国人を雇用しているように装い、人件費を水増ししていた疑いが持たれています。
会社と代表者は、所得約1億4300万円を隠し、法人税約4000万円と消費税約4200万円を免れたとして刑事告発されたと報じられています。
ただし、ここで注意しなければならないのは、現時点では刑事告発・捜査段階だということです。刑事告発は、有罪判決とは異なります。
個別の外国人が事情を知っていたのか、実際に在留資格申請が行われたのか、許可を受けた人がいるのかについても、報道からは確認できません。
在留資格は「会社に在籍した形」を作れば取得できるものではない

就労系の在留資格では、外国人が日本で実際に行う活動が審査されます。
例えば「技術・人文知識・国際業務」は、日本の会社との契約があるだけで認められるものではありません。
本人の学歴や職歴と業務内容との関連性、仕事の専門性、報酬、会社の事業内容や安定性などが総合的に確認されます。
出入国在留管理庁の提出書類でも、労働条件通知書や雇用契約書、会社の法定調書合計表などが求められています。
しかし、これらの書類は「雇用の実態を説明する資料」であって、紙だけを整えればよいという意味ではありません。出入国在留管理庁「技術・人文知識・国際業務」
実際には仕事をしていないのに給与の振込履歴だけを作ったとしても、勤務場所、上司、勤怠記録、業務成果物、給与台帳、源泉徴収、社会保険などを確認すれば、どこかに不自然さが表れます。
相談の現場では、「雇用契約書さえあれば就労ビザを取れる」と考えている方に出会うことがあります。
しかし、入管が審査しているのは契約書という一枚の紙ではなく、その先にある仕事と生活の実態です。
虚偽申請は在留資格取消しにつながる

入管法第22条の4では、偽りその他不正の手段によって上陸許可や在留許可を受けた場合や、虚偽の書類を提出して許可を受けた場合などに、在留資格を取り消すことができると定めています。
出入国在留管理庁「在留資格の取消し」
出入国在留管理庁は、偽造した卒業証明書や虚偽の雇用証明書を提出して在留資格を得る行為を「偽装滞在」の問題として明示しています。
虚偽申請を行った本人だけでなく、これを手助けした者も、事実関係によっては刑罰や退去強制の対象となる可能性があります。出入国在留管理庁「平成28年入管法改正について」
2025年に行われた在留資格取消しは1,446件で、前年から22.1%増加しました。このうち「技術・人文知識・国際業務」は63件です。
ただし、63件すべてが架空雇用や虚偽申請によるものではありません。
出入国在留管理庁「令和7年の在留資格取消件数」
税務と入管は別々の世界ではない

今回の報道で印象的なのは、一つの雇用記録が、税務上は人件費となり、入管手続では雇用実態を示す資料になり得ることです。
税務、労務、社会保険、在留資格は、それぞれ別の制度です。しかし、基礎となる事実は同じです。
本当に働いているのか。どのような仕事をしているのか。誰が給与を受け取っているのか。会社が申告している従業員数と実態が一致しているのか。
厚生労働省は、外国人を雇い入れ、または離職させた事業主に外国人雇用状況の届出を義務付けています。
届出を怠った場合や虚偽の届出をした場合は、30万円以下の罰金の対象となります。厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」
一つの制度で作った「形」は、別の制度から確認されます。
書類の辻褄だけを合わせる手法は、長くは続きません。
「在留資格を取らせる」という勧誘で確認したいこと

次のような勧誘を受けた場合は、その場で契約や口座開設をせず、立ち止まる必要があります。
- 仕事内容より先に「在留資格を取れる」と説明される
- 実際の勤務場所、上司、業務内容が分からない
- 振り込まれた給与の返金や引出しを求められる
- 雇用証明書を発行する対価として金銭を要求される
- 申請書の内容や提出書類を本人に見せない
これらの事情が一つあるだけで直ちに違法と断定できるわけではありません。
ただ、複数が重なる場合は、通常の雇用とはかなり離れています。
また、今回報じられた約200人の外国人についても、全員を一括して「共犯」と考えることはできません。
事情を知らずに勧誘された人、途中で不自然さに気付いた人、積極的に関与した人では法的評価が異なります。
国籍によって問題が生じるのではなく、問題なのは虚偽の雇用と制度の悪用です。
在留資格を「商品」にしてはいけない

在留資格は、会社が外国人に与えるものではありません。
外国人が日本で行う活動に対し、法務大臣が許可する法的な地位です。
雇用契約書、給与振込、在職証明書は、その活動を裏付けるための資料にすぎません。
仕事の実態がなければ、いくら資料を重ねても土台がありません。
外国人本人は、申請書と提出資料の内容を確認し、控えを受け取っておくことが重要です。
企業側も、仕事内容、勤怠、給与、税務、社会保険の記録を一貫させなければなりません。
在留資格取得をうたう不審な勧誘や、実態のない雇用契約に関する相談は、申請を行う前に専門家へ確認してください。
刑事事件や脱税の可能性がある場合には、行政書士だけでなく、弁護士や税理士との連携が必要です。
- 記事末尾の整理
【結論】
在留資格は、雇用契約書や給与振込の形ではなく、実際の就労活動に基づいて認められます。実態のない雇用を在留資格申請に利用すれば、許可取消しや刑事責任につながる可能性があります。
【根拠】
- 入管法第22条の4に基づく在留資格取消制度
- 虚偽の雇用証明書などを対象とした偽装滞在者対策
- 外国人雇用状況の届出義務
- 2025年の在留資格取消件数
【注意点・例外】
今回の個別企業については刑事告発・捜査段階であり、有罪は確定していません。外国人ごとの認識、関与の程度、申請の有無も不明です。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
- 出入国在留管理庁「在留資格の取消し」
- 出入国在留管理庁「令和7年の在留資格取消件数について」
- 出入国在留管理庁「平成28年入管法改正について」
- 出入国在留管理庁「技術・人文知識・国際業務」
- 厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」
参考情報
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