退職自衛官を「入国警備官」に活用する案が浮上
テレビ朝日は2026年7月23日、政府が、不法滞在者の摘発や送還を担う入国警備官として、退職した自衛官を活用する方向で検討していると報じました。
テレビ朝日の報道
報道によれば、政府は入国警備官と入国審査官を合計200人以上増員する方針で、入国警備官は約50人を増やし、不法就労者の把握数が多い茨城県へ重点的に配置する案が示されています。
7月28日にも閣議決定される見通しとされています。
ただし、7月23日現在、退職自衛官の採用方法、対象年齢、配置先、研修内容などを示す政府の一次資料は確認できません。
現段階では、あくまで報道された「検討案」です。決定済みの制度として受け止めることはできません。
出入国在留管理庁は、2025年5月から「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を進めています。
2025年には護送官付き国費送還で318人を送還し、過去最多となりました。今回の人員強化も、この流れの延長線上にあると考えられます。
出入国在留管理庁「令和7年の出入国在留管理業務の状況」
この記事のポイント

- 入国警備官の仕事は、警備や護送だけではなく、法令に基づく違反調査を含む
- 退職自衛官をどの採用枠で受け入れるのかは、現時点ではわからない
- 取締り強化が進むほど、企業には日頃の外国人雇用管理が問われる
入国警備官は「体力のある警備員」ではない

人事院の案内によれば、入国警備官は、不法入国や不法滞在などの違反事件を調査し、対象者の摘発、収容、護送、送還、被収容者の処遇、施設警備などを担う公安職です。
人事院「入国警備官採用試験」
送還時の不測の事態への対応という点では、自衛隊で培った体力、規律、組織行動、危機対応の経験が生かされる場面はあるでしょう。
人手不足への対応と退職自衛官の再就職支援を同時に進められる点にも、一定の合理性があります。
一方、入国警備官の仕事は力仕事だけではありません。
違反調査では、本人や関係者から事情を聴き、資料を集め、退去強制手続につながる事実を整理します。
対象者の中には、日本に家族がいる人、病気を抱える人、難民認定手続中の人などもいます。
入管法の知識、証拠の扱い、通訳を介した意思確認、人権への配慮が欠かせません。
厳正な対応と適正手続は、どちらか一方を選ぶものではありません。
むしろ、取締りを強化するほど、両方の質が問われます。
採用方法には、まだ見えない部分がある

2026年度の通常の入国警備官採用試験では、社会人区分の受験資格は「1986年4月2日以降に生まれた者」とされています。
人事院の受験資格
これに対し、陸上自衛隊の公式案内では、自衛官の大半は若年定年制により50歳代半ばで退職し、任期制自衛官の多くは20歳代から30歳代半ばで退職すると説明されています。
陸上自衛隊「退職自衛官 採用のススメ」
したがって、50歳代半ばの退職自衛官を主な対象とするのであれば、現在の通常試験だけでは対応できません。
推測ですが、別枠の選考採用を設けるのか、任期制で退職した比較的若い人材を中心とするのか、何らかの制度設計が必要になると考えられます。
「活用」が具体的に何を意味するのかは、政府の正式発表を待つ必要があります。
在留外国人の増加と不法残留は分けて見る

2025年末の在留外国人数は412万5,395人で、前年末から9.5%増え、初めて400万人を超えました。出入国在留管理庁の在留外国人数統計
一方、2026年1月1日現在の不法残留者数は6万8,488人で、1年前より6,375人、率にして8.5%減少しています。
在留外国人が増えたから不法残留者も同じように増えている、という単純な関係ではありません。
出入国在留管理庁の不法残留者数統計
また、2025年に退去強制手続等を執られた人のうち、不法就労の事実が認められた人は1万3,435人でした。就労場所別では茨城県が3,518人で最多です。
今回、茨城県への重点配置が報じられた背景には、この統計があると考えられます。
出入国在留管理庁「令和7年における入管法違反事件について」
ただし、これは入管が手続を行い、不法就労を把握した人の統計です。
日本国内の不法就労者全体を示す推計ではありません。
摘発統計は、実態の全景ではなく、行政が把握できた範囲を示す数字として読む必要があります。
外国人を雇用する企業にとっての意味

入国警備官の増員は、適法に働く外国人を直ちに取り締まるという話ではありません。
ただ、違反調査や不法就労の実態把握が強化されれば、受入れ企業や就労先への確認が増える可能性はあります。
企業としては、在留カードの有効性だけでなく、実際の業務が在留資格の範囲内か、届出が必要な変更を放置していないか、派遣・請負の現場で契約と指揮命令の実態がずれていないかを確認しておくべきです。
給与台帳、出勤記録、雇用契約書、業務内容を説明できる資料を平時から整えておくことも大切です。
現場でよく感じるのは、「在留カードを見たから大丈夫」で確認が止まってしまう危うさです。
カードが有効でも、許可された活動と実際の仕事が一致しているとは限りません。
人数を増やした先に、どのような入管行政をつくるのか

退職自衛官の経験を生かすこと自体を、最初から否定する必要はないと思います。
ただし、制服組としての経験だけを見て「すぐに送還業務ができる」と考えるのは早計です。
必要なのは、入管法、行政手続、語学・通訳、人権、被収容者処遇について十分に学ぶ仕組みと、採用後の監督・検証です。
増員の成果を摘発数や送還数だけで測れば、現場に無理が生じかねません。
ルールを守らない行為には厳正に対応する。同時に、適法に暮らし、働く外国人まで一括りにしない。この二つを両立させてこそ、取締り強化に対する社会の信頼も生まれるのではないでしょうか。
外国人雇用の適法性は、在留資格の名称だけでは判断できません。
実際の職務内容や契約形態に不安がある場合は、調査を受けてからではなく、平時のうちに専門家へ確認することをおすすめします。
記事末尾の整理
【結論】
退職自衛官の活用には、人手不足への対応や危機対応経験の活用という合理性があります。一方、入国警備官は強制力を伴う法執行職であり、採用方法、法的研修、人権配慮、監督体制まで含めて制度を評価する必要があります。
【根拠】
入国警備官の職務は、違反調査、摘発、収容、護送、送還、被収容者の処遇、施設警備です。2025年末の在留外国人数は412万5,395人、2026年1月1日現在の不法残留者数は6万8,488人です。2025年に把握された不法就労者は1万3,435人で、就労場所別では茨城県が3,518人と最多でした。
【注意点・例外】
退職自衛官の活用と200人超の増員は、現時点では報道段階です。7月28日の閣議決定も予定であり、確定事項ではありません。
「不法残留者数」と「不法滞在者全体」、「把握された不法就労者数」と「国内の実人数」は同じではありません。個別の在留状況や雇用の適法性は、具体的事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
- 人事院「入国警備官採用試験」
- 出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」
- 出入国在留管理庁「本邦における不法残留者数について」
- 出入国在留管理庁「令和7年における入管法違反事件について」
- 出入国在留管理庁「不法滞在者ゼロプラン」
- 陸上自衛隊「退職自衛官 採用のススメ」
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