外国人スタッフがいないと回らない医療現場
福岡県大牟田市の精神科病院で、インドネシア人の准看護師が認知症治療病棟で働いているという報道がありました。
報道によれば、同病棟の看護スタッフ21人のうち6人、約3分の1がインドネシア人スタッフであり、病院側は「外国人が来ないと業務が回らない」と受け止めています。
この言葉は、少し重いです。
「外国人材の活用」というと、どうしても制度論や人手不足対策として語られがちです。しかし医療現場では、患者の健康管理、食事・排泄・入浴の介助、日々の声かけといった、生活と命に直結する仕事の中に外国人スタッフが入っています。
単なる労働力ではなく、病棟の日常を支える一員になっているということです。
行政書士として在留資格の相談を受けていると、外国人雇用の話は「採用できるか」「ビザが取れるか」に寄りがちです。
もちろん、それは大切です。ただ、医療や介護の現場では、その先にある「続けて働けるか」「地域に根づけるか」まで見ないと、制度はうまく機能しません。
福岡県の外国人看護職員養成事業とは

今回の報道で紹介された背景には、福岡県医師会などが取り組む外国人看護職員の養成事業があります。
福岡県の公表資料によれば、インドネシア共和国およびミャンマー連邦共和国で、日本での看護師資格取得を目指す人に対し、日本語教育、准看護師養成所の入学試験支援、日本看護導入教育などを行い、准看護師養成所の入学試験に合格した人が渡航する仕組みが整理されています。
重要なのは、いきなり日本に来て働くのではなく、現地段階から日本語教育を行い、日本の看護制度に入る準備をしている点です。
福岡県医師会の資料でも、令和6年4月に大牟田医師会看護専門学校の准看護師課程へ入学した7名が、令和8年2月の福岡県准看護師試験に全員合格したことが示されています。
これは、地域医療の人材確保として非常に示唆的です。人材不足だから海外から呼ぶ、という単純な話ではありません。
教育、資格取得、就労先、生活支援、地域定着を一体で考える必要があります。
在留資格の面で注意すべきこと

外国人が日本で看護師や准看護師として働く場合、中心になる在留資格は「医療」です。出入国在留管理庁は、在留資格「医療」の対象として、医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師など、日本の資格を有する者が行う医療業務を挙げています。
申請書類としても、日本の資格を有することを証明する免状や証明書等の写しが求められます。
ここで実務上、特に注意が必要なのが准看護師です。
法務省資料では、准看護師として業務に従事しようとする場合、日本で准看護師免許を受けた後、4年以内の期間中に研修として業務を行うことが基準として示されています。
つまり、准看護師として働けるからといって、無期限に同じ形で在留できるわけではありません。将来的に看護師国家試験に合格して看護師資格を取得するのか、別の在留資格に該当する活動へ移るのか、本人のキャリア設計と医療機関側の支援方針が重要になります。
ここを曖昧にしたまま採用すると、数年後に「更新できると思っていたのに難しい」という問題が起きる可能性があります。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
EPAの外国人看護師候補者とは別の整理も必要

外国人看護師と聞くと、EPAによる外国人看護師候補者を思い浮かべる方もいるかもしれません。
厚生労働省は、インドネシア、フィリピン、ベトナムからのEPA看護師・介護福祉士候補者の受入れについて情報を公表しています。
ただし、厚労省はこの枠組みについて、看護・介護分野の労働力不足への対応として行うものではなく、経済活動の連携強化の観点から実施するものと説明しています。
一方、福岡県の外国人看護職員養成事業は、地域の看護師不足という現実により近いところから設計されているように見えます。報道でも、大牟田市では若者の流出や看護学校の入学者減少が紹介されています。
同じ「外国人看護人材」でも、EPA、留学から資格取得、在留資格「医療」への移行など、ルートによって制度の意味が異なります。
医療機関が受け入れる場合は、本人がどのルートで来日し、現在どの在留資格で、どの資格を取得しているのかを正確に確認する必要があります。
礼拝場所の提供は「特別扱い」ではなく定着支援

報道では、病院内にイスラム教徒のスタッフが礼拝できる場所を設けていることも紹介されています。
この点は、外国人雇用の現場でよく誤解されます。宗教上の配慮を「そこまでしないといけないのか」と感じる事業者もあります。しかし、礼拝場所の確保や食事への配慮は、過度な特別扱いというより、働き続けるための環境整備です。
もちろん、すべての職場で完全な対応ができるわけではありません。
医療現場はシフト制で、患者対応もあります。礼拝時間、休憩時間、制服、食事、患者対応とのバランスをどう取るかは、現場ごとの調整が必要です。
大切なのは、採用後に慌てて考えるのではなく、受け入れ前から本人に確認し、職場内で共有しておくことです。
文化や宗教の違いは、知らないままだと摩擦になりますが、事前に分かっていれば運用の工夫で対応できることも少なくありません。
医療現場の外国人受入れは、制度と現場の両輪で見る

厚生労働省では、2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会が開催され、看護職員の需給推計や養成の在り方などが議論されています。
日本の医療現場で看護職員をどう確保するかは、今後さらに大きな課題になるでしょう。
外国人材の受入れは、その選択肢の一つです。ただし、外国人を受け入れればすぐに解決する、という話ではありません。
在留資格、資格取得、日本語、国家試験、准看護師としての在留期間、宗教・文化配慮、地域での生活支援。これらがつながって初めて、外国人スタッフは安心して働けます。
現場で働く外国人の姿を見ると、「外国人に支えられている」という現実を感じます。一方で、その支えを一時的な人手不足対策として消費してはいけないとも思います。地域医療の担い手として迎えるなら、制度面でも生活面でも、長く働ける道筋を一緒に作る必要があります。
- 記事末尾の整理
【結論】
外国人看護職員は、すでに一部の地域医療において欠かせない存在になっています。ただし、医療機関が受け入れる際は、人手不足対策として見るだけでなく、在留資格「医療」の要件、准看護師としての期間制限、資格取得支援、宗教・文化への配慮を一体で考える必要があります。
【根拠】
出入国在留管理庁は、在留資格「医療」の対象に看護師・准看護師等を含め、日本の資格を有することを証明する文書を求めています。
法務省資料では、准看護師について、日本で免許を受けた後4年以内の期間中に研修として業務を行うことが基準として示されています。
福岡県・福岡県医師会関係資料では、現地での日本語教育、日本看護導入教育、准看護師養成所への入学支援などの取組が示されています。
【注意点・例外】
准看護師として在留資格「医療」で働く場合、将来的な看護師資格取得や在留資格上の見通しを確認する必要があります。
EPA看護師候補者、留学からの資格取得、在留資格「医療」による就労は制度上の位置づけが異なります。
宗教上の配慮は、職場運営との調整が必要であり、個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
出入国在留管理庁「在留資格『医療』」
法務省「在留資格『医療』」資料
厚生労働省「インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて」
厚生労働省「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」
福岡県・福岡県医師会関連資料
FNNプライムオンライン、テレビ西日本報道、2026年5月26日
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