外国人雇用管理指針の改正案が了承へ。企業実務に何が求められるのか
厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会で、外国人労働者を雇用する事業主が講ずべき措置を定めた「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」の改正案が審議され、おおむね妥当との答申が行われました。
厚生労働省は、この答申を踏まえて省令等の改正作業を進めるとしています。
今回の改正案は、単に「外国人を雇うときの注意点が少し増える」という話ではありません。
背景には、外国人労働者の増加、育成就労制度の創設予定、そして「秩序ある共生社会」という政策上の言葉があります。
厚労省資料でも、令和9年4月1日に育成就労制度が創設される予定であることなどを踏まえ、指針を見直すものと説明されています。
行政書士として現場を見ていると、外国人雇用のトラブルは「悪意」だけで起きるわけではありません。
むしろ多いのは、在留カードを見たつもり、届出をしたつもり、アルバイトだから大丈夫だと思っていた、という小さな確認不足です。
今回の改正案は、その曖昧な部分を企業にもう一段強く意識させる内容だと受け止めています。
改正案の大きなポイント

1. 共生社会の実現と企業の雇用管理が結び付けられた
改正案では、外国人労働者の雇用管理に関する基本的考え方として、日本人労働者が共生社会の実現について理解し協力すること、外国人労働者が共生の理念、日本の文化、日本語、法律や制度を理解し、責任ある行動をとることができるよう、事業主が適切な雇用管理を行うことが重要であるとされています。
ここは、少し慎重に読む必要があります。
外国人労働者にだけ「日本を理解しなさい」と求める話ではありません。
職場の側、つまり日本人従業員や管理者も、外国人と一緒に働く環境を理解しなければならないという方向性です。
たとえば、現場では「日本語がわからないから危ない」「文化が違うから扱いにくい」という声を聞くことがあります。
ただ、その一方で、就業規則や安全衛生教育、労働条件通知書、相談窓口の説明が十分に伝わっていないケースも少なくありません。
外国人本人の努力だけでなく、企業側の伝え方も問われる時代になっていると感じます。
2. 不法就労防止がより明確に書き込まれる
改正案では、不法就労は決してあってはならず、事業主が不法就労をさせた場合には、出入国管理及び難民認定法の罰則が適用され得るという認識のもと、適切な措置を講ずるべきであることが明記されます。
ここで重要なのは、「知らなかった」では済まない場面があるということです。
在留資格には、それぞれ認められる活動の範囲があります。たとえば「技術・人文知識・国際業務」で単純作業中心の業務に従事させることは問題になり得ますし、「留学」の在留資格で働く場合には、資格外活動許可の有無や週28時間以内の制限を確認する必要があります。
企業の実務では、採用時に在留カードをコピーして終わり、という運用がまだあります。しかし本来は、在留資格、在留期間、就労制限の有無、資格外活動許可欄、従事予定業務との整合性まで確認する必要があります。特に人手不足の現場では、「働ける人ならすぐ入ってほしい」という心理が先に立ちます。ここが一番危ないところです。
3. 外国人雇用状況届出の罰則も明記
外国人を雇い入れたとき、または離職したときには、事業主は外国人雇用状況の届出を行う必要があります。
改正案では、この届出をしない場合や虚偽の届出をした場合に、労働施策総合推進法上の罰則が適用され得ることに留意する旨が明記されます。
この届出は、雇用保険の被保険者になるかどうかによって手続の方法が変わるため、総務・人事担当者が混乱しやすい部分です。
雇用保険に加入する外国人であれば、雇用保険被保険者資格取得届・喪失届の中で外国人雇用状況も届け出ます。一方、雇用保険に加入しない短時間労働者などの場合には、別途、外国人雇用状況届出書をハローワークに提出する必要があります。
「アルバイトだから届出はいらない」と誤解している企業がありますが、これは危険です。留学生アルバイトや家族滞在の資格外活動者であっても、外国人雇用状況届出の対象になることがあります。
個別事情により判断が分かれるため、雇用形態だけで決めつけず確認が必要です。
4. 在留カード確認に読取アプリの活用が推奨される
改正案では、外国人雇用状況届出を届け出る際に在留カードを確認する場合、出入国在留管理庁が提供する在留カード等読取アプリケーションを使用し、在留カードの券面情報との整合性を確認することが適切である旨が規定されます。
これは実務上かなり大きいです。
在留カードの偽造は、見た目だけでは判断が難しい場合があります。
カードの表面を目視して、コピーを取って、担当者がファイルに保存する。これだけでは、偽造カードを見抜けない可能性があります。
もちろん、アプリを使えばすべて安全というわけではありません。読み取り結果、在留カードの券面、本人確認書類、実際に予定している業務内容を総合して確認する必要があります。ただ、今後は「在留カードを見ました」だけではなく、「どのような方法で確認したのか」まで企業の管理体制として問われる可能性があります。
行政書士の感覚としては、外国人雇用が多い企業では、採用時チェックリストに「在留カード等読取アプリによる確認」を入れておくべき段階に入ったと考えます。
5. 日本語学習支援が企業の責務として整理される
改正案では、日本語教育の推進に関する法律に基づき、外国人労働者とその家族に対する日本語学習の機会の提供等の支援に努めることが事業主の責務であるとされます。
また、事業主は、日本語能力に配慮した教育訓練の実施その他必要な措置を講ずるよう努めることも規定されます。
ここでいう「日本語学習支援」は、単に日本語学校に通わせるという話だけではありません。
たとえば、職場で使う言葉をやさしい日本語で整理する、安全衛生教育を母語や平易な日本語で補足する、業務マニュアルに図や写真を入れる、生活上の相談先を案内する。
こうした小さな工夫も、広い意味では日本語能力に配慮した雇用管理に含まれると考えられます。
外国人本人の家族にも触れられている点は、見落とされがちです。
家族帯同で生活している外国人労働者の場合、配偶者や子どもが地域社会になじめるかどうかは、本人の定着にも影響します。職場の外の不安が、職場でのパフォーマンスに影響することは珍しくありません。
企業が今から確認すべき実務対応

今回の改正案は、予定では令和8年5月下旬に告示され、内容により令和8年6月14日、令和8年10月1日、令和9年4月1日から段階的に適用される予定です。
企業としては、まず次の点を確認しておくとよいでしょう。
採用時に在留カード原本を確認しているか。
在留カード等読取アプリを使う運用になっているか。
在留資格と実際の業務内容が合っているか。
外国人雇用状況届出を雇入れ時・離職時に行っているか。
留学生や家族滞在者の資格外活動許可、就労時間を確認しているか。
日本語能力に配慮した教育訓練、安全衛生教育をしているか。
外国人本人だけでなく、管理者側にも外国人雇用の基本研修をしているか。
このあたりは、一度社内で棚卸しをした方がよいです。
特に、店舗や現場ごとに採用権限が分散している会社では、本部が把握していない外国人雇用が発生していることがあります。
悪気がなくても、届出漏れや在留資格確認漏れは起こります。
育成就労制度を見据えた「選ばれる企業」への転換

今回の指針改正は、育成就労制度の創設予定ともつながっています。
厚労省資料では、改正法の施行を踏まえ、育成就労外国人の帰国旅費や、育成就労の適正な実施・育成就労外国人の保護に関する事項も盛り込まれています。
技能実習制度から育成就労制度へ移行していく中で、企業に求められる姿勢も変わっていきます。
これまでは「受け入れてあげる」という感覚が残っていた企業もあったかもしれません。しかし、これからは外国人材からも選ばれる企業でなければ、継続的な採用は難しくなります。賃金、労働時間、教育体制、相談体制、生活支援、日本語支援。こうしたものが、制度対応であると同時に採用力そのものになります。
在留資格の手続だけを整えても、現場の雇用管理が弱ければ、外国人材は定着しません。反対に、制度を正しく理解し、現場に合った支援を積み重ねている企業は、今後の外国人雇用で強くなっていくはずです。
行政書士として感じること

外国人雇用の相談を受けていると、「ビザが取れれば終わり」と考えている企業に出会うことがあります。しかし、在留資格の許可はスタート地点です。
採用後に、どの仕事を任せるのか。
労働条件は日本人と比べて不合理になっていないか。
生活や日本語の不安を誰が受け止めるのか。
在留期限や届出を誰が管理するのか。
ここまで含めて外国人雇用です。
今回の指針改正案は、企業にとって手間が増える話に見えるかもしれません。
ただ、実務の現場から見ると、むしろ「本来やるべき確認を明確にしたもの」と受け止めるべきです。
外国人雇用は、人手不足を埋めるための応急処置ではありません。企業の一員として働いてもらう以上、在留資格、労務管理、生活支援、相互理解を一体で考える必要があります。そこを雑に扱うと、企業も外国人本人も傷つきます。
今回の改正を機に、外国人雇用の社内ルールを見直しておくことをおすすめします。
在留カード確認、外国人雇用状況届出、在留資格と業務内容の確認、日本語支援体制などは、会社ごとの実態によって必要な対応が変わります。外国人雇用の管理体制に不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 記事末尾の整理
【結論】
外国人雇用管理指針の改正案は、外国人を雇う企業に対して、在留カード確認、外国人雇用状況届出、不法就労防止、日本語学習支援、育成就労への対応をより明確に求める内容です。企業は「採用できるか」だけでなく、「適正に雇用管理できるか」を見直す必要があります。
【根拠】
厚生労働省の第224回労働政策審議会職業安定分科会資料では、外国人雇用管理指針の一部改正案が議題とされ、おおむね妥当との答申が行われたとされています。
改正案概要では、外国人雇用状況届出制度の運用改善、育成就労制度の創設予定、不法就労防止、日本語学習支援、在留カード等読取アプリの活用などが改正内容として整理されています。
【注意点・例外】
今回の内容は、現時点では改正案・告示予定を前提とした整理です。正式な告示内容や施行日、実務運用の詳細は今後確認が必要です。
在留資格と業務内容の適合性、資格外活動の可否、外国人雇用状況届出の方法、育成就労制度への対応は、個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
厚生労働省
第224回労働政策審議会職業安定分科会資料
厚生労働省
外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針の一部を改正する告示案概要
e-Govパブリック・コメント
外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針の一部を改正する告示案に関する意見募集
参考情報
日本テレビ報道「外国人を雇う企業などが行うべき対応を盛り込んだ指針の改正案、厚労省の分科会が了承」
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