特定技能申請で「合格証を出せば通る」時代ではなくなっている
在留資格「特定技能」の申請をめぐり、日本語試験の合格証明書の偽造対策が強化されています。
読売新聞オンラインの2026年6月5日配信記事によれば、出入国在留管理庁は、2026年1月から、特定技能の申請者全員について、日本語試験の合格状況を試験運営団体に照会する運用を始めたとされています。
従来は一部照会にとどまっていたものを、全件照会へ広げたという内容です。
行政書士としてこの報道を読むと、単なる「偽造対策」というより、特定技能制度そのものが次の段階に入ったと感じます。
制度開始当初は、技能実習からの移行が中心でした。しかし近年は、試験に合格して特定技能へ進む「試験ルート」の存在感が大きくなっています。試験ルートが増えれば、当然、試験結果の真正性が審査の核心になります。
特定技能1号では、日本語能力について、原則として国際交流基金日本語基礎テスト、または日本語能力試験などにより一定水準を確認します。
入管庁のQ&Aでも、特定技能1号の日本語能力水準について、JFT-BasicまたはJLPT N4以上などが示されています。
なお、自動車運送業の一部区分や鉄道分野の一部区分では、より高い水準が求められる扱いがあります。
なぜ全件照会が必要になったのか

背景には、偽造合格証による不正取得事件があります。
報道では、大阪府警が、偽造された日本語試験の合格証を入管に提出し、特定技能を取得していたベトナム人らを摘発した事件が紹介されています。
裁判でも、偽造と見破れない体裁であり、出入国管理制度に悪影響を与えた趣旨の指摘がされたとされています。
ここで重要なのは、偽造書類の問題は、本人だけの問題にとどまらないという点です。
特定技能は、本人の在留資格であると同時に、受入機関、登録支援機関、分野所管省庁、試験実施機関が関わる制度です。
もし偽造合格証で在留資格が認められれば、本人は不正に就労することになり、受入企業も結果として不適切な外国人雇用に巻き込まれます。
企業側からすると、「本人が合格証を持っていたから信じた」という感覚かもしれません。
しかし、今後はそれだけでは足りません。少なくとも、合格証の記載内容、氏名、生年月日、受験番号、試験名、試験区分、合格日などを丁寧に確認する姿勢が必要です。
実際、申請する前に企業や申請を取次ぐ行政書士や弁護士などが照会できる仕組み作りの必要性は常々感じていました。
日本語試験、そのものも本人確認が強化されている

特定技能でよく使われる日本語試験の一つが、国際交流基金日本語基礎テスト、いわゆるJFT-Basicです。JFT-Basicは、総合得点が250点満点中200点以上の場合に、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力、つまりA2レベルがあると判定されます。
また、国際交流基金は、国内実施に関する本人確認の強化についても公表しています。国内受験では、在留カード情報の確認や本人確認情報の利用について説明されており、不正受験の防止や不正判定調査などを目的とする運用が示されています。
つまり、現在の流れは、申請段階だけでなく、受験段階から不正を防ごうとする方向に進んでいます。
偽造合格証だけでなく、替え玉受験、本人確認書類の不一致、名義の使い回しといった問題も、制度上のリスクとして見られているということです。
企業が確認すべきなのは「合格しているか」だけではない

受入企業の実務で誤解されやすいのは、「試験に合格していれば特定技能で雇える」という考え方です。
もちろん、試験合格は重要です。
しかし、特定技能の審査では、それだけで許可されるわけではありません。雇用契約の内容、報酬額、日本人と同等以上の待遇、支援計画、受入機関の法令遵守状況、分野別の要件なども確認されます。
入管庁は、特定技能制度に関する情報や試験関係の情報を継続的に公表しています。
試験関係についても、制度の運用方針や各分野の試験情報を確認する必要があります。
現場感覚でいえば、企業が最初に見るべきなのは、書類のきれいさではありません。
むしろ、本人の経歴、試験合格の時期、現在の在留資格、転職理由、これまでの勤務状況が自然につながっているかです。
たとえば、まったく日本語で受け答えができないのに、日本語試験の合格証だけがある。本人がどの試験を受けたのか説明できない。合格証の画像だけが送られてきて、原本やマイページでの確認ができない。こうした場合は、すぐに採用や申請を進めるのではなく、いったん立ち止まるべきです。
技能試験の合格証も今後は照会対象が広がる可能性

報道では、入管庁が技能試験の合格証についても、全件で合格状況を照会する方向で各試験の所管省庁と調整しているとされています。
これは非常に大きな意味があります。
特定技能は、日本語能力と技能水準の両方を確認して就労を認める制度です。日本語試験だけを厳格化しても、技能試験の合格証が偽造されれば、制度の根幹が揺らぎます。したがって、技能試験の照会強化は自然な流れです。
受入企業としては、今後、申請前の社内確認をより丁寧にする必要があります。本人から受け取った合格証をそのまま行政書士や登録支援機関へ送るだけではなく、本人に受験時期、受験地、試験名、試験区分を確認する。可能であれば、試験実施機関のマイページや結果通知の画面と照合する。こうした地味な確認が、後々の大きなトラブルを防ぎます。
不正対策は「外国人を疑う」ためではなく、制度を守るため

この種のニュースが出ると、「外国人が悪い」という単純な話に流れがちです。しかし、実務上はもう少し丁寧に見る必要があります。
偽造合格証の背景には、本人の不正だけでなく、仲介者、ブローカー、SNS上の不正情報、試験制度への理解不足、来日を急がせる採用側の圧力など、複数の要素が絡むことがあります。
もちろん、偽造書類を提出することは許されません。ただ、それを防ぐ仕組みを企業側も持たなければ、制度全体が不安定になります。
特定技能は、人手不足分野を支える重要な在留資格です。介護、外食、宿泊、建設、製造業など、多くの現場で外国人材が不可欠になっています。だからこそ、不正が入り込む余地を減らす必要があります。
制度の信頼性が失われると、まじめに試験を受け、正当に働こうとしている外国人まで疑われます。受入企業も、適正に採用しているにもかかわらず、社会的な目が厳しくなります。これは誰にとっても望ましくありません。
行政書士として見る実務上のポイント

特定技能申請では、今後ますます「真正性の確認」が重要になります。
本人確認、試験合格証、雇用契約、支援体制、転職経緯、過去の在留状況。これらは別々の書類に見えますが、審査では一つのストーリーとして見られます。
どこかに不自然な点があると、追加資料や確認が入る可能性があります。
企業としては、採用のスピードだけを優先しないことです。特定技能は、単に人を入れる制度ではなく、一定の技能と日本語能力を持つ外国人を、適正な労働条件と支援体制のもとで受け入れる制度です。
採用前の段階で少し時間をかけて確認する。その一手間が、申請不許可、不正関与の疑い、雇用後のトラブルを防ぎます。
特定技能の審査は、今後も厳格化と合理化が同時に進むと思われます。だからこそ、企業側も「書類を集める」から「書類の意味を確認する」実務へ移っていく必要があります。
- 記事末尾の整理
【結論】
特定技能申請では、日本語試験の合格証を提出するだけでなく、その真正性が全件照会される時代に入っています。企業は、合格証の有無だけで判断せず、本人確認、試験情報、在留状況、雇用条件を一体として確認する必要があります。
【根拠】
特定技能1号では、日本語能力と技能水準の確認が重要な要件となります。日本語能力については、JFT-BasicやJLPTなどが用いられ、JFT-Basicでは250点満点中200点以上でA2レベル相当と判定されます。入管庁Q&Aでも、特定技能1号の日本語能力水準としてJFT-BasicまたはJLPT N4以上などが示されています。
【注意点・例外】
技能実習から特定技能へ移行する場合など、試験免除が認められるルートもあります。ただし、免除される範囲や対象は分野、職種、移行経緯によって異なります。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
また、特定技能2号には通算在留期間の上限がありませんが、これは永住許可そのものではありません。特定技能1号は原則として通算5年以内の在留期間上限があります。
【出典】
一次情報
出入国在留管理庁「特定技能制度」
出入国在留管理庁「試験関係」
出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」
出入国在留管理庁「通算在留期間」
国際交流基金「JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テスト」
国際交流基金「JFT-Basic国内実施及び本人確認に関するお知らせ」
参考情報
読売新聞オンライン「日本語試験の『偽造合格証』見逃さない…『特定技能』申請者全員の合否、入管が全件照会」2026年6月5日配信
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