在留手数料の引き上げは、単なる「値上げ」では済まない
外国人が日本で暮らし、働き、学び続けるためには、在留資格の変更や在留期間の更新といった手続きが欠かせません。
その手続きにかかる手数料を大幅に引き上げる入管難民法改正案が、国会で審議されています。
出入国在留管理庁の公表資料では、在留資格変更許可や在留期間更新許可の手数料上限を現行の1万円から10万円へ、永住許可については30万円へ引き上げる内容が示されています。
具体的な手数料額は政令で定める仕組みとされています。つまり、法律案で決まるのは「上限」であり、実際にいくらになるかは、まだ最終確定ではありません。
参議院の議案情報によれば、この法案は2026年3月10日に提出され、4月28日に衆議院本会議で可決、5月15日時点で参議院法務委員会に付託されています。
したがって、現時点では「成立済み」と断定する段階ではなく、「成立すれば大幅な負担増につながる可能性が高い法案」と表現するのが正確です。
※当記事は5月15日時点の情報で書いています。
現場感覚として重いのは、家族単位・企業単位で負担が積み上がること

現在の手数料は、2025年4月1日に改定済みで、在留手続等に関する手数料の改定が入管庁から公表されています。
さらに法務省資料の検索結果では、在留資格変更・在留期間更新の手数料は窓口で6,000円、永住許可は1万円とされています。
これが、報道や社説で示されているように、在留期間3年で6万円程度、永住許可で20万円程度という水準になれば、外国人本人にとってはかなり大きな負担です。
実務で見ると、在留資格の更新は本人だけの問題ではありません。
家族滞在の配偶者や子どもがいれば、世帯全体で手続きが発生します。企業が費用を一部負担している場合には、外国人社員1人あたりの雇用コストも上がります。
中小企業にとっては、採用費、登録支援費、住居支援、日本語教育費に加えて、在留手数料まで重くなる構図です。
「外国人材が必要だ」と言いながら、在留を続けるための入口で負担を急に上げる。この政策メッセージは、現場にはかなり冷たく響くと思います。
行政コストを誰が負担するのか、という問題

もちろん、在留審査には行政コストがかかります。オンライン申請システムの整備、審査体制の強化、相談窓口、多言語対応、日本語教育など、必要な施策は多い。外国人が増えている以上、入管行政の体制整備が必要であること自体は否定できません。
実際、令和7年末の在留外国人数は412万5,395人で、前年末から35万6,418人増加し、初めて400万人を超えました。外国人労働者数も、令和7年10月末時点で257万1,037人となり、届出義務化以降で過去最多です。
ただし、ここで考えたいのは、共生社会の基盤整備をどこまで個々の外国人本人に負担させるべきか、という点です。
外国人も日本で働き、税金や社会保険料を負担しています。
地域で暮らし、子どもを学校に通わせ、消費者としても社会を支えています。その人たちに対し、「あなたたちが増えたから、共生政策の費用も手数料で負担してください」という説明だけで十分なのか。ここには、もう少し丁寧な議論が必要です。
「秩序ある共生」と「負担増」は、同じ方向を向いているのか

政府は近年、「秩序ある共生」という言葉を強く打ち出しています。ルール違反への対応、不法就労対策、在留管理の厳格化は、制度の信頼性を保つうえで必要です。
一方で、制度を正しく利用している外国人まで一律に重い負担を受ける形になると、まじめに手続きをしている人ほど不利益を受ける構図になりかねません。
ここは、入管実務に携わる立場から見ても慎重であるべきです。
たとえば、特定技能「外食業分野」では、2026年2月末時点で在留者数が約4万6千人となり、受入れ見込数5万人を超えることが見込まれるとして、2026年4月13日以降の在留資格認定証明書交付申請は不交付とする運用が示されています。
人手不足の現場では外国人材を求めている。
しかし制度上は受入れを止める。そこに手数料の大幅引き上げも重なる。企業から見ると、政策の方向性が読みにくくなっています。
実務上、企業と外国人本人が今から考えるべきこと

まだ具体的な手数料額は確定していません。ただ、制度改正の方向性として、在留手続きにかかる費用が上がる可能性は高いと見ておくべきです。
企業側では、外国人社員の更新時期、家族帯同の有無、会社負担の範囲を整理しておく必要があります。
特に、就業規則や雇用契約書で「在留資格更新費用を会社が負担する」と明記している場合、どこまでを会社負担とするのか、今後の見直しが必要になるかもしれません。
外国人本人に対しては、「今すぐ永住を申請した方がよい」と短絡的に勧めるのは危険です。
永住許可は、費用だけで判断するものではありません。
納税、年金、健康保険、収入、在留状況、家族構成、在留期間などを総合的に確認する必要があります。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
行政書士として感じること

在留手数料の引き上げ自体を、すべて否定するつもりはありません。審査体制を整え、相談支援を厚くし、オンライン申請を使いやすくするために費用が必要だという説明には、一定の理解もできます。
ただ、制度改正には順番があります。
まず、何にどれだけの行政コストがかかっているのか。増収分をどの施策に充てるのか。低所得世帯、留学生、難民申請者、家族帯同者、地方の中小企業にどのような影響が出るのか。そこを示したうえで、段階的な引き上げや減免制度を議論すべきです。
外国人を「管理の対象」としてだけ見るのか。それとも、地域社会を一緒に支える生活者として見るのか。今回の在留手数料引き上げ問題は、その分岐点にあるように感じます。
日本が本当に共生社会を目指すのであれば、必要なのは、外国人を締め出すように見える制度設計ではなく、ルールを守って暮らす人が安心して日本に根を張れる仕組みです。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容、雇用管理、家族状況、将来の在留方針によって結論が変わることがあります。手数料改正をきっかけに、更新時期や永住申請の可否、会社負担の範囲を一度整理しておくことをおすすめします。
4. 記事末尾の整理
【結論】
在留手数料の見直し自体には一定の必要性があるとしても、在留資格変更・更新で上限10万円、永住許可で上限30万円という大幅な引き上げは、外国人本人や雇用企業に大きな影響を与える可能性があります。共生社会を掲げるのであれば、負担増の根拠、使途、減免制度、段階的実施について丁寧な説明が必要です。
【根拠】
出入国在留管理庁の国会提出法案資料では、在留資格変更許可・在留期間更新許可・永住許可に関する手数料上限引き上げが示されています。参議院議案情報では、2026年4月28日に衆議院で可決され、2026年5月15日時点で参議院法務委員会に付託されていることが確認できます。
【注意点・例外】
具体的な手数料額は、法案成立後に政令で定められるため、現時点で確定額として断定することはできません。永住申請についても、手数料が上がる前に急いで申請すればよいという単純な話ではなく、納税、年金、健康保険、収入、在留状況などの要件確認が必要です。
【出典】
出入国在留管理庁「第221回国会提出法案」
参議院「第221回国会 議案審議情報」
出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ 令和7年10月末時点」
京都新聞社説「外国人の在留料 理を欠く負担増弊害大きい」2026年5月18日、参考情報
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