入管行政の厳格化で何が変わる?サイバーパトロール導入と外国人雇用の実務

この記事のポイント

- 入管庁は「不法滞在者ゼロプラン」に、摘発の強化とサイバーパトロールを加えた
- 不法残留者数と、2030年末までの半減目標の対象者は同じ集団ではない
- 新しい義務が突然できたというより、既存ルールの確認と執行が強まる動きと見るべきである
入管行政は「審査」だけでなく「摘発」も強化する

産経新聞は2026年8月25日、政府が不法滞在や不法就労への対応を強め、SNS上の情報を収集・分析するサイバーパトロールの導入を進めていると報じました。
この動きの土台にあるのが、出入国在留管理庁が2025年5月23日に公表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」です。
入国管理、在留管理・難民審査、出国・送還という各段階から、不法滞在者を減らす方針が示されました。
さらに2026年5月22日には「不法滞在者ゼロプラン~強力推進パッケージ~」が公表され、「摘発の強化」が新たな施策として追加されています。
関係機関が連携し、SNS上の不法就労募集や偽造在留カードの売買情報などを収集・分析して、悪質なブローカーや不法就労助長者の摘発につなげる方向です。
ここで大切なのは、入管法上の就労ルールが今回初めて作られたわけではないことです。
変わりつつあるのは、違反を発見する入口と、行政がそこへ割く人員です。
政府は2026年7月28日、出入国在留管理庁の定員を226人増やす政令を閣議決定しました。
法務大臣の会見によれば、同月31日付けの増員です。
在留審査だけでなく、摘発や送還を実行する体制そのものが厚くなると考えた方がよいでしょう。
6万8,488人という数字をどう読むか

入管庁の公表によれば、2026年1月1日現在の不法残留者は6万8,488人です。
前年の7万4,863人から6,375人減少しました。
また、2025年中に国費送還された823人のうち、護送官を付して送還された人は318人でした。
ただし、数字は丁寧に読む必要があります。
ゼロプランが2030年末までの半減目標としているのは、退去強制が確定した後も国内にとどまる人です。
不法残留者6万8,488人の全員を、そのまま半減目標の母数としているわけではありません。
また、不法残留者数は外国人の犯罪率を示す統計でもありません。
異なる数字を一つの印象にまとめてしまうと、適法に暮らす外国人まで疑いの目で見られることになります。
厳格化を語るときほど、対象を正確に切り分ける必要があります。
サイバーパトロールで摘発の入口が変わる

これまでも、入管庁は一般から不法滞在や偽装滞在に関する情報提供を受け付け、警察や労働行政などと連携してきました。
サイバーパトロールが本格化すれば、求人広告や仲介業者の投稿、偽造カードの売買情報、外国語による募集も、調査の端緒になり得ます。
報道では、AIを使った自動巡回システムも検討されているとされています。
ただし、対象となる媒体、導入時期、情報の選別方法、人による確認手続など、具体的な運用は現時点の公表資料ではわかりません。
AIによる監視がすでに全面稼働している、と断定するのは早計です。
一方で、「SNSでしか募集していないから見つからない」「外国語の投稿なら確認されない」という前提は、すでに通用しにくくなっています。
外国人を雇用する企業が今見直したい3点

1 在留カードの真正性と有効性
券面を見るだけでなく、出入国在留管理庁の在留カード等読取アプリケーションと失効情報照会を活用することが重要です。
2026年6月14日以降に交付される新様式の在留カードでは、在留期間など一部情報が券面に記載されません。
8月19日公開のアプリ更新版では、在留期間、許可の種類、許可年月日も確認できるようになりました。
2 在留資格と実際の業務が合っているか
在留カードが本物でも、任せる仕事が在留資格の範囲外なら適法就労とは限りません。
「技術・人文知識・国際業務」であれば肩書ではなく実際の業務内容、「留学」や「家族滞在」であれば資格外活動許可の有無と労働時間を確認します。採用時に一度見ただけで終わらせず、配置転換や副業の開始時にも再確認が必要です。
3 確認した事実を管理できているか
在留期限、確認日、確認項目、担当業務、資格外活動許可の内容を一覧化し、更新時期を見落とさない仕組みを整えます。
対象となる外国人の雇入れ・離職時には、外国人雇用状況の届出も必要です。
不法就労助長罪は、「知らなかった」と言うだけで当然に免責される制度ではありません。
だからこそ、形式的にカードのコピーを保管するだけではなく、誰が、いつ、何を確認したのかを説明できる状態が企業を守ります。
個人情報の取得・保管は必要な範囲にとどめ、管理方法にも配慮しなければなりません。
厳格化と共生は、本来対立するものではない

私は、ルール違反への対応を強めること自体と、外国人との共生は必ずしも矛盾しないと考えています。
不法就労を放置すれば、低賃金や長時間労働を前提とする事業者が得をし、適正に雇用する企業と外国人本人が損をします。
ただし、厳格化が外国人全体への疑念や、国籍だけを理由とする採用回避につながってはなりません。
必要なのは「外国人だから疑う」ことではなく、国籍にかかわらず、在留資格、就労範囲、雇用条件を同じ手順で確認することです。
摘発の強化が進む今、企業に求められるのは萎縮ではなく、雇用管理の精度を一段上げることだと思います。
在留資格と担当業務の対応関係は、職種名だけでは判断できません。
外国人の採用、配置転換、副業、在留期間の更新などで迷う場合は、実際の業務内容と資料をそろえ、早めに専門家へ確認することをおすすめします。
記事末尾の整理
【結論】
サイバーパトロールと入管庁職員の増員は、違反発見と執行の体制を強める動きです。
企業は新制度を恐れるより、在留カードの有効性、在留資格と業務の適合、外国人雇用状況届出、更新期限の管理を見直す必要があります。同時に、厳格化の対象を適法に暮らす外国人全体へ広げて受け止めてはいけません。
【根拠】
- 2025年5月公表「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」
- 2026年5月公表「不法滞在者ゼロプラン~強力推進パッケージ~」
- 2026年1月1日現在の不法残留者数6万8,488人
- 2025年中の国費送還823人、うち護送官付き318人
- 2026年7月28日の閣議決定による入管庁定員226人増員
- 労働施策総合推進法第28条に基づく外国人雇用状況の届出義務
【注意点・例外】
- 不法残留者数と、退去強制確定後も国内にとどまる者の半減目標は、同じ統計ではありません。
- AIによる自動巡回は報道上「検討」とされており、具体的な開始時期や運用方法は現時点ではわかりません。
- 在留カードが有効でも、実際の業務が許可された活動範囲に入るとは限りません。
- 外国人雇用状況届出は、在留資格「外交」「公用」の人と特別永住者は対象外です。
- 資格外活動許可の範囲や包括許可・個別許可の別など、個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
- 出入国在留管理庁「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」
- 出入国在留管理庁「不法滞在者ゼロプラン~強力推進パッケージ~」
- 出入国在留管理庁「本邦における不法残留者数について(令和8年1月1日現在)」
- 出入国在留管理庁「令和7年における入管法違反事件について」
- 法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要(2026年7月28日)」
- 出入国在留管理庁「在留カード等読取アプリケーション/失効情報照会」
- 厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」
- 出入国在留管理庁「就労資格の在留諸申請に関連してお問い合わせの多い事項」
参考情報
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