三重県「外国人職員採用」アンケートが差別と判断 設問16の何が問題だったのか
毎日新聞は2026年7月31日、三重県の諮問機関である「三重県差別解消調整委員会」が、外国人職員の採用について尋ねた県民アンケートの設問を「差別に該当する」と判断したと報じました。
報道によれば、委員会は、アンケート結果を公表しないよう県に答申する見通しです。
ただし、記事作成時点では、委員会の答申本文や県の正式な対応方針は公式サイトで確認できません。したがって、委員会の具体的な判断内容については、現段階では報道に基づく情報として扱う必要があります。
この記事のポイント

- 問題とされたのは、単に外国人職員の採用について意見を聞いたことだけではない
- 情報漏えいと外国籍を結びつける設問構成には、回答を一定方向へ導くおそれがあった
- 外国籍住民が回答対象から外れた状態で、外国人の採用継続を多数に尋ねた点も重い
問題となった設問16の内容

三重県の実際の調査票を見ると、設問16では、県が1999年以降、職員採用における国籍要件を撤廃し、公権力の行使などに関わらない業務について外国籍職員を採用してきた経緯が説明されています。
その後に、国によっては自国民に情報活動への協力義務を課す法律があり、外国籍職員が個人情報などを扱うことで、公務員の守秘義務に抵触する事案が発生することが懸念されると説明しています。
この説明を読んだうえで、「外国籍職員の採用を続けるべきか」を回答する構成でした。
情報管理への懸念自体は、行政として検討すべきテーマです。
しかし、設問には外国籍職員による具体的な漏えい事例や、アクセス制限などの代替策は示されていません。
仮定上の危険を先に強調し、その直後に採用継続の是非を尋ねれば、「外国籍であること自体が情報漏えいの危険につながる」と受け取られるおそれがあります。
県も批判を受け、アンケートには補足資料を同封しました。
それでも、設問そのものが持つ誘導性への懸念は残りました。
当事者を外して、採用の是非を尋ねる問題

もう一つ見過ごせないのが、外国籍住民がアンケートの回答対象から結果として除外されていたことです。
県の発表では調査対象を「県内居住の18歳以上」としていましたが、実際には選挙人名簿から対象者を抽出していたため、外国籍住民には回答の機会がありませんでした。
この点は、三重県の住民監査請求の監査結果でも確認されています。
外国籍住民が参加できないアンケートで、外国人が県職員として働き続けることの是非を尋ねる。
これは、単なる調査手法の問題ではありません。
多数の意見を聞くことは行政運営に必要です。
ただ、少数者の就労機会や社会参加に関わる問題を、多数意見だけで決めることには慎重でなければなりません。
多数決は意思決定の方法ではあっても、人権上の問題を解消してくれる仕組みではないからです。
外国人は地方公務員になれないのか

外国人の地方公務員への採用について、「すべて認めなければならない」「国籍による制限はすべて違法」と単純に整理することもできません。
最高裁判所大法廷の2005年1月26日判決は、地方公共団体が在留外国人を職員に任命することを地方公務員法が一律に禁止しているわけではないとしています。
一方、公権力を行使する職や重要な政策決定に関わる職については、日本国籍を要件とする制度に合理性が認められる場合があると判断しました。
つまり、職務内容や権限、任用制度に応じた検討が必要なのであって、「外国籍だから県の仕事には就けない」という一律の結論が当然に導かれるわけではありません。
今回報じられた委員会の判断も、国籍要件一般を違法とした裁判所の判断ではなく、三重県条例に基づき、設問の構成や社会に与える効果を問題にしたものと考えられます。
情報管理の問題を国籍の問題に置き換えない

行政が扱う個人情報や機密情報は、当然に守られなければなりません。
ただ、情報漏えいの危険は、日本国籍があれば消えるものでも、外国籍であれば一律に高まるものでもありません。
本来確認すべきなのは、誰が、どの情報に、どの権限でアクセスできるのかという点です。
アクセス権限の最小化、操作履歴の保存、重要情報の分離、複数人による承認、守秘義務研修など、国籍にかかわらず講じるべき対策があります。
特定の国の法律による影響が現実に問題となるのであれば、その法律の適用範囲や本人の職務を個別に確認すべきでしょう。
「外国人」と一括りにしてしまえば、特別永住者、永住者、日本人の配偶者、就労資格を持つ人、出身国も生活歴も異なる人たちが、同じ危険を持つ集団として扱われてしまいます。
実務的にも、あまりに粗い整理です。
民間企業の外国人採用にも通じる話

この問題は、行政だけのものではありません。
企業の外国人採用でも、「日本語が通じないかもしれない」「すぐ辞めるかもしれない」「情報管理が不安だ」といった漠然とした印象が、外国人を採用しない理由に置き換わることがあります。
在留資格の確認はもちろん必要です。
しかし、それとは別に、職務内容、アクセス権限、評価基準、研修体制を整理することが重要です。
外国人そのものをリスクとして扱うのではなく、どの業務にどのリスクがあり、どう管理するかを考える。これは外国人雇用に限らず、組織の情報管理に共通する基本ではないでしょうか。
行政が不安を数える前にすべきこと

県民の不安や意見を聞くこと自体を否定する必要はありません。
ただし、行政が示す前提や言葉は、社会の見方をつくります。
「外国人を採用して大丈夫か」と尋ねる前に、「どのような情報管理対策があれば安心できるか」「職務に応じた任用制度をどう設計するか」と問うこともできたはずです。
差別を解消する仕組みを設けた県自身の施策が、その仕組みから問題を指摘された。この事実は、外国人との共生を考えるすべての行政や企業にとって、重い問いかけだと感じます。
外国人雇用では、在留資格の適合性だけでなく、採用後の配置や情報管理まで含めた設計が必要です。判断に迷う場合は、漠然とした不安のまま結論を出さず、事実関係を整理したうえで専門家へ相談することをおすすめします。
4.記事末尾の整理
【結論】
情報管理上の懸念は検討すべきですが、外国籍であることと情報漏えいの危険を直結させ、当事者を除外したアンケートで採用継続の是非を問う手法には重大な問題があります。国籍一律ではなく、職務・権限・具体的リスクに基づいて判断すべきです。
【根拠】
三重県の調査票における設問16、三重県の差別解消条例、住民監査請求の監査結果、最高裁判所大法廷2005年1月26日判決、2026年7月31日付毎日新聞報道を根拠としています。
【注意点・例外】
委員会の答申本文と県の正式な対応は、記事作成時点では確認できません。報道された判断は裁判所による違法認定ではなく、三重県条例に基づく手続上の判断です。個別の公務員任用については、職務内容や権限、各自治体の制度により結論が変わります。
【出典】
- 三重県「第4回みえ県民1万人アンケートを実施します」
- 第4回みえ県民1万人アンケート調査票
- 三重県「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」逐条解説
- 三重県「住民監査請求の監査結果」
- 最高裁判所大法廷2005年1月26日判決
- 毎日新聞「外国人職員採用の三重県民アンケ設問は『差別』」
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