虚偽申請で在留期間更新許可か 上越市の事件から考える入管実務の重さ
2026年5月21日、上越妙高タウン情報は、虚偽の申請をした入管法違反の疑いで、中国籍の男女6人が逮捕されたと報じました。
報道によれば、うち5人は、実際には金属類の廃品回収業の従業員とみられる一方で、飲食店で調理師として就労しているという内容の在留期間更新許可申請書等を提出し、在留期間更新許可を受けた疑いがあるとされています。
また、別の1人は、在留申請オンラインシステムを通じて虚偽内容の在留資格認定証明書交付申請情報と雇用契約書を送信し、在留資格認定証明書の交付を受けて日本に上陸した疑いがあるとのことです。
まず大前提として、これは逮捕段階の報道です。
逮捕された方が直ちに有罪と決まったわけではありません。
報道でも、会社役員の男性は容疑を認めている一方、ほかの5人は否認しているとされています。
ただし、在留資格実務の現場から見ると、この事件はかなり重要な問題を含んでいます。単なる「書類の間違い」ではなく、在留資格制度の根幹に関わる話だからです。
在留期間更新は「今後も同じ活動をしてよいか」を見る手続き

在留期間更新許可申請は、単に在留カードの期限を延ばす手続きではありません。
出入国在留管理庁の案内でも、審査基準として、在留資格に応じた活動に該当し、かつ「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があること」とされています。
つまり、入管は「この人は、今後もその在留資格に合った活動を続けるのか」を見ています。
たとえば、調理師として働く内容で申請しているのに、実際には別の業種、別の現場、別の職務で働いているとなれば、在留資格の前提そのものが崩れます。
今回の報道では、飲食店で調理師として就労しているという内容で申請した一方、実際には金属類の廃品回収業に関わっていた可能性が示されています。
報道だけでは、逮捕された方々の具体的な在留資格までは確認できません。
調理師という記載から「技能」などが連想されますが、現時点では断定できません。
ここを曖昧にしてはいけません。
在留資格は「肩書き」ではなく「実際に行う活動」で判断されるものです。
虚偽申請は「あとで直せばよい」では済まない

入管法では、偽りその他不正の手段により上陸許可を受けたり、在留期間更新許可などを受けたりした場合、罰則や在留資格取消しの問題が生じ得ます。
入管法には「偽りその他不正の手段」による許可取得に関する規定が置かれています。
実務上、虚偽申請で問題になるのは、単に「事実と違うことを書いた」という点だけではありません。
入管が本来であれば許可しなかった可能性のある申請について、虚偽の雇用契約書、虚偽の職務内容、虚偽の勤務先情報を使って許可を得たのであれば、制度全体への信頼を損ないます。
行政書士として怖いと感じるのは、本人や企業が「書類上だけ整えればいい」と考えてしまうケースです。
たしかに、申請書には勤務先名、職務内容、報酬、契約期間などを書きます。
しかし、それは作文ではありません。
実態を確認するための入口です。
雇用主側も「知らなかった」では済まない可能性がある

今回の報道では、会社役員の男性が金属類の廃品回収業をしており、4人はそこの従業員とみられるとされています。
ここで企業側が考えなければならないのは、外国人本人だけの問題ではないということです。
外国人を雇う会社は、在留カードを確認するだけでなく、その人が実際に従事する業務が在留資格に合っているかを確認する必要があります。とくに就労系在留資格では、「どこで働くか」「何をするか」「どのような契約か」が重要になります。
もし、実際には別の業務をさせる予定なのに、形式上だけ別の職務内容で申請していた場合、本人だけでなく、雇用側、仲介者、書類作成に関与した者にも問題が広がる可能性があります。
もちろん、今回の事件で誰がどこまで関与したかは、報道だけではわかりません。
ここは断定してはいけない部分です。
ただ、外国人雇用の現場では、次のような危険な発想が見られることがあります。
「この在留資格ではこの仕事は難しいから、書類上は別の仕事にしておこう」
「実際は現場作業だけど、申請書には管理業務と書いておこう」
「雇用契約書は作るが、実際の配属はあとで変えればいい」
これは非常に危険です。
入管実務では、書類と実態のズレが後から問題化することがあります。
オンライン申請でも、虚偽が許されるわけではない

今回の報道では、1人について、在留申請オンラインシステムを通じて虚偽内容の在留資格認定証明書交付申請情報と雇用契約書を送信した疑いがあるとされています。
出入国在留管理庁は、在留期間更新許可申請についてもオンライン申請が可能であると案内しています。
オンライン申請は便利です。行政書士実務でも、今後さらに利用が進むと思います。
しかし、オンライン化は「審査が軽くなる」という意味ではありません。
むしろ、送信したデータ、添付資料、申請履歴が残るという意味では、後から検証されやすい面もあります。
紙で出したか、オンラインで送ったかは本質ではありません。
問題は、その内容が事実に基づいているかどうかです。
行政書士として見るべきポイント

この種の事件を見ると、行政書士としては、どうしても「受任時にどこまで確認できたか」を考えます。
在留資格申請では、依頼者が持ってきた資料をそのまま整えるだけでは足りません。
勤務先は本当に存在するのか。
雇用契約の内容と実際の業務は一致しているのか。
本人はその業務に必要な経験や技能を持っているのか。
会社は本当にその人をその職務で雇用するのか。
こうした確認を怠ると、申請代理人・取次者側も非常に危ない立場に置かれます。
行政書士は捜査機関ではありません。すべての事実を強制的に調査できるわけでもありません。
しかし、明らかに不自然な説明、実態と合わない契約書、本人が理解していない職務内容が出てきた場合には、立ち止まる必要があります。
「この申請、通せますか」ではなく、
「この申請、事実に基づいていますか」
という問いを持たなければなりません。
外国人本人に伝えたいこと

外国人本人にとって、在留資格は生活そのものに直結します。仕事、家族、住まい、将来設計のすべてに関係します。
だからこそ、「とりあえず許可を取るために、事実と違う内容で申請する」という選択は、長期的には本人を最も苦しめます。
一度、虚偽申請が疑われると、その後の更新、変更、永住、帰化にも影響する可能性があります。
刑事事件になれば、在留の継続そのものが難しくなることもあります。
本人が日本語に不安がある場合、会社や知人、ブローカーに任せきりになってしまうことがあります。
しかし、申請書に書かれている内容は、最終的には本人の在留に関わる内容です。
自分がどこの会社で、どんな仕事をする内容で申請されているのか。
ここを本人が理解していない申請は、とても危ういと思います。
企業に必要なのは「採用前の在留資格チェック」

外国人雇用では、採用後に在留資格を考えるのでは遅いことがあります。
採用前に、少なくとも次の点は確認すべきです。
現在の在留資格で働ける業務か。
予定している職務内容と申請書類の内容は一致しているか。
雇用契約書、給与、勤務場所、業務内容に実態があるか。
転職・配置転換の場合、入管手続きが必要にならないか。
とくに地方では、人手不足が深刻です。
「来てくれるなら何とかしたい」という企業側の気持ちは理解できます。
しかし、制度に合わない雇用を無理に進めると、本人も会社も傷つきます。
外国人雇用は、人手不足対策である前に、法令遵守を前提とする雇用管理です。
まとめ 書類は「実態」を映すものでなければならない

今回の報道は、まだ捜査段階の情報です。したがって、個々の被疑者について有罪・無罪を判断することはできません。
ただ、在留資格申請の実務に関わる者として、この事件から学ぶべきことは明確です。
在留資格申請は、書類を作って許可を取る作業ではありません。
日本で何をするのか、その活動に在留資格が合っているのか、その実態を入管に説明する手続きです。
書類と実態がズレたまま進めると、最初は許可が出たように見えても、後で大きな問題になることがあります。
外国人本人、雇用主、支援者、専門家。
それぞれが「本当の内容で申請する」という基本に戻る必要があります。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容や雇用管理の状況によって結論が変わることがあります。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
本日発売の新潟日報内の記事に、当事務所代表行政書士播磨が不法就労に関する取材を受けた記事が掲載されます。その記事はこちらです。
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/835100
そこでも、本日のブログに記載した内容と同様のことを話をしています。
ぜひご覧になってください。
- 記事末尾の整理
【結論】
虚偽の勤務先・職務内容で在留期間更新や在留資格認定証明書交付を受けることは、単なる書類不備ではなく、入管法違反や在留資格取消しにつながり得る重大な問題です。外国人本人だけでなく、雇用主や関与者にもリスクが及ぶ可能性があります。
【根拠】
上越妙高タウン情報の2026年5月21日報道では、中国籍の男女6人が虚偽申請をした入管法違反の疑いで逮捕されたとされています。
出入国在留管理庁は、在留期間更新許可申請の審査基準として、在留資格に応じた活動該当性と、更新を適当と認める相当の理由を示しています。
入管法上、偽りその他不正の手段による許可取得は、罰則や在留資格取消しの問題となり得ます。
【注意点・例外】
今回の件は逮捕段階の報道であり、有罪が確定したわけではありません。
報道だけでは、逮捕された方々の具体的な在留資格、実際の職務内容、会社側や第三者の関与範囲は断定できません。
不法就労助長罪、営利目的の不正取得助長、在留資格取消しなどの問題は、個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
出入国在留管理庁「在留期間更新許可申請」
出入国管理及び難民認定法、e-Gov法令検索
出入国在留管理庁「在留資格の取消し」
参考情報:上越妙高タウン情報「虚偽申請で在留期間更新許可受ける 入管法違反の疑いで中国籍の男女6人逮捕」2026年5月21日更新
