「永住権」ではなく「永住許可」と考えることが大切です

外国人の在留制度を説明するとき、一般的には「永住権」という言葉がよく使われます。
たしかに日常会話では通じやすい表現です。かく言う私も日常として使用することもあります。
しかし、実務上は少し注意が必要です。
日本の制度では、外国人が日本に永住できる地位は「権利」として当然に与えられるものではなく、法務大臣の許可によって与えられる在留資格上の地位です。
そのため、正確には「永住許可」といいます。そして、永住許可を受けた外国人が持つ在留資格が「永住者」です。
この違いは、単なる言葉の問題ではありません。
最近の外国人政策を見ていると、国は「日本で安定して暮らす地位を認める以上、公的義務を継続して果たしていることも重要である」という方向へ制度を整理しようとしています。
行政書士として現場を見ていても、永住許可はゴールではなく、むしろ「日本社会の中で長く生活していくためのスタート地点」に近いものだと感じます。
2027年4月から永住許可制度の適正化が始まる

2024年6月に成立した改正入管法により、永住許可制度の適正化が行われることになりました。
施行は2027年4月が予定されています。
今回の改正で特に注目されているのは、一定の場合に在留資格「永住者」の取消しが問題となる点です。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、税金や年金に少し遅れがあっただけで、すぐに永住者でなくなるという制度ではないことです。
出入国在留管理庁の説明でも、問題とされているのは、支払能力があるにもかかわらず、故意に公租公課を支払わないような悪質なケースです。病気、失業、収入減少など、やむを得ない事情がある場合まで一律に取消しの対象にする趣旨ではありません。
ここは、外国人本人にも、支援者にも、企業にも丁寧に伝える必要があります。
新たに問題となる3つの取消事由

1. 税金・社会保険料などを故意に支払わない場合
一番大きく報道されているのが、税金や社会保険料の未納です。
ここでいう公租公課には、所得税、住民税、国民年金保険料、健康保険料などが含まれると考えられます。
ただし、実務上重要なのは「未納があるかどうか」だけではありません。
なぜ未納になったのか。
支払能力はあったのか。
督促を無視していたのか。
役所に相談して分納手続をしていたのか。
後からきちんと納付したのか。
こうした事情によって、評価は大きく変わるはずです。
永住許可申請の現場では、2019年以降、納税や年金・健康保険の納付状況はかなり厳しく見られるようになりました。数日の納付遅れでも問題視されることがあります。
今回の改正は、永住許可を受ける前だけでなく、許可を受けた後も公的義務の履行が重要であることを明確にするものといえます。
2. 入管法上の義務を正当な理由なく履行しない場合
永住者であっても、在留カードに関する義務はあります。
たとえば、在留カードの有効期間更新、紛失時の再交付申請、住所変更の届出、在留カードの携帯義務などです。
永住者には在留期間の更新はありませんが、在留カード自体には有効期間があります。この点を勘違いしている方は少なくありません。
「永住だから何もしなくていい」と思っていると、在留カードの更新を忘れてしまうことがあります。これは実務上も起こり得るミスです。
もっとも、出入国在留管理庁は、うっかり在留カードを携帯し忘れた場合などに直ちに取消しをすることは想定していないと説明しています。
ここでも問題となるのは、単なるミスではなく、正当な理由なく義務を履行しない悪質なケースです。
3. 一定の重大な刑罰法令違反があった場合
もう一つは、一定の重大な犯罪により拘禁刑に処せられた場合です。
永住者は就労制限がなく、在留期間の更新もないため、非常に安定した在留資格です。しかし、だからといって、どのような行為をしても維持されるものではありません。
従来から、重大犯罪や退去強制事由に該当する場合には、在留資格を失う可能性はありました。
今回の改正は、永住許可制度の趣旨に照らし、許可後の事情も含めて適正に管理する方向を明確にしたものと見ることができます。
取消事由に当たっても、必ず取消しになるわけではない

ここも非常に重要です。
取消事由に該当したからといって、機械的に在留資格「永住者」が取り消され、すぐに退去強制になるわけではありません。
出入国在留管理庁の説明では、個別事情を踏まえ、引き続き日本に在留することが適当でないと認められる特別な場合を除き、在留資格の変更許可を行うことが想定されています。
つまり、永住者ではなくなるとしても、直ちに日本での生活基盤をすべて失うとは限りません。
ただし、在留資格「定住者」などに変更された場合には、在留期間が付きます。更新手続も必要になります。住宅ローン、家族の在留資格、勤務先との関係にも影響が出る可能性があります。
永住者であることは、生活の安定に直結します。だからこそ、日頃の義務履行を軽く見ないことが大切です。
高市政権下で進む外国人政策の見直し

近年の外国人政策は、「受入れ」と「管理」の両方を強める方向に動いています。
人手不足の現場では外国人材の存在が欠かせません。介護、建設、外食、宿泊、製造、ITなど、多くの分野で外国人材が地域社会を支えています。
一方で、不法就労、偽装申請、公租公課の未納、在留カード偽造などへの対応も強化されています。
2026年1月には「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」が決定されました。ここでは、外国人の受入れを前提としながらも、出入国・在留管理の適正化、関係機関の情報連携、日本語教育、生活支援などが一体的に整理されています。
また、永住許可に関するガイドラインも改訂され、現に有する在留資格について最長の在留期間をもって在留していることが明記されています。
これまで実務上、3年の在留期間でも最長期間として扱われる場面がありましたが、今後は5年の在留期間が重要になる場面が増えると考えられます。
帰化についても、2026年4月1日から審査運用が厳格化され、法務大臣の記者会見では、「日本社会に融和していること」について、原則として10年以上の在留を必要とする運用にする旨が説明されています。
実務上、今から確認しておきたいこと

永住許可を受けた方、これから永住許可を目指す方は、特別なことをする必要があるというより、基本を徹底することが大切です。
税金、年金、健康保険料は期限内に納付する。支払えない事情がある場合は、放置せず、市区町村や年金事務所に相談する。分納や猶予の手続をした場合は、その記録を残す。
在留カードの有効期限、住所変更、海外渡航時の再入国期限も確認しておく必要があります。
特に、みなし再入国許可で出国した場合、原則として1年以内に再入国しなければなりません。永住者であっても、ここを誤ると在留資格を失うことがあります。
企業側も、永住者だから在留管理は不要と考えない方がよいでしょう。もちろん、永住者は就労制限がありません。しかし、在留カードの確認、住所変更、家族の在留資格、社会保険加入など、周辺管理は引き続き重要です。
「怖がらせる制度」ではなく、生活管理を見直すきっかけに

今回の永住許可制度の適正化については、不安を感じている外国人の方も多いと思います。
ただ、実務家としては、過度に怖がらせる説明は避けるべきだと考えています。
大切なのは、税金や社会保険料の支払い、在留カードの管理、住所変更の届出といった基本的な義務を、日常生活の中できちんと整えておくことです。
永住許可は、日本で長く暮らしていくための大切な地位です。だからこそ、取得した後も「もう何もしなくていい」ではなく、「日本社会の一員として生活の土台を整え続ける」意識が必要になります。
在留資格の制度は、条文だけを読んでも実感しにくいものです。
しかし、納税通知書を放置しない、年金の納付状況を確認する、在留カードの期限をカレンダーに入れる。そうした小さな行動が、結果として在留の安定につながります。
在留資格申請や永住許可の判断は、制度の条文だけでなく、実際の生活状況、収入、納税、家族構成、過去の在留履歴によって結論が変わることがあります。
判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
4. 記事末尾の整理
【結論】
永住許可は「権利」として当然に維持されるものではなく、法務大臣の許可に基づく在留資格上の地位です。2027年4月施行予定の改正入管法により、故意の公租公課不払いや入管法上の義務不履行などが、在留資格「永住者」の取消事由として問題となる可能性があります。ただし、単なる納付遅れややむを得ない未納で直ちに取消しになる制度ではなく、個別事情を踏まえた判断が予定されています。
【根拠】
出入国在留管理庁は、永住許可制度の適正化について、故意に公的義務を履行しない場合などを問題としており、病気や失業などやむを得ない事情による未納まで一律に対象とする趣旨ではないと説明しています。
永住許可に関するガイドラインでは、素行善良要件、独立生計要件、国益適合要件が示され、国益適合要件の中で原則10年以上の在留、公的義務の履行、最長の在留期間での在留などが整理されています。
2026年1月23日には「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」が決定され、外国人の受入れと在留管理の適正化を一体的に進める方向が示されています。
【注意点・例外】
納税・年金・健康保険料の未納がある場合でも、未納理由、支払能力、相談・分納の有無、是正状況によって評価は変わります。
在留資格「永住者」の取消事由に該当する可能性がある場合でも、必ず取消しになるわけではありません。
永住者本人の在留資格が変更された場合、配偶者や家族の在留資格に影響する可能性があります。
帰化、永住許可、在留資格変更・更新は制度趣旨が異なります。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
出入国在留管理庁「永住許可制度の適正化Q&A」
出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン(令和8年2月24日改訂)」
出入国在留管理庁「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」
法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要(2026年3月27日)」
出入国在留管理庁「入管法上の手数料の額の上限額の引上げ」
参考情報:LIFULL HOME’S 不動産投資編集部「税金や年金未納で外国人の永住権が取り消される?高市政権で話題の今後の外国人政策とは」(2026年6月7日更新)
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