「平均年収未満なら永住不可」と言い切ってよいのか
出入国在留管理庁は2026年8月4日、「永住許可に関するガイドライン」の改定案を公表しました。報道では「日本人の年収の平均以上がなければ永住不可」といった強い見出しも出ています。
最初に確認しておきたいのは、改定案の本文に「平均収入を下回れば自動的に不許可」とは書かれていないことです。記載されているのは、申請者が属する世帯の年収が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準に継続して達しているかを「考慮要素」とする、というものです。
永住許可は、個別事情を総合的に考慮して判断するとされています。
したがって、報道の見出しをそのまま読んで「1円でも下回れば申請できない」と理解するのは正確ではありません。
ただし、安心もできません。
改定案は「現在及び将来において、日本人と同等水準以上の経済条件が求められる」と明記しています。実際の審査では、平均収入がかなり強い基準として働く可能性があります。
どの統計の、どの時点の数値を使うのか、何年間の継続を求めるのか、他の事情によってどこまで補えるのか。現時点では、具体的な審査基準額や運用の全体像はわかりません。
今回の改定は「今の収入」だけを見ていない

世帯年収は、原則として同一生計世帯の単位で判断されます。
一方、「家族滞在」など就労を目的としない在留資格の人が資格外活動で得た収入は、原則として世帯年収に合算しません。
外国に住む親族を含め、申請者が扶養する親族は世帯人数に加え、5人以上の場合は必要な年収水準に生活費等の増加分を加算するとされています。
さらに、将来受け取る年金の見込額まで審査対象になります。目安は、平均収入を上回る年収水準で30年間働き、その間、厚生年金に加入していた場合の受給水準です。
不足する場合は金融資産で補う余地があり、若い申請者ほど必要な補填資産額を低くする考え方も示されています。
平均値を「生活できるか」の境界にしてよいのか

弁護士JPニュースによれば、指宿昭一弁護士らは、入管法が定める「独立の生計を営むに足りる資産又は技能」という文言を、ガイドラインで平均収入や30年分の年金水準にまで具体化することについて、実質的な立法に当たるのではないかと批判しました。
この法的評価は、現段階で確定していません。入管法は法務大臣に広い裁量を認めており、行政が判断の統一や予見可能性のために考慮要素を示すこと自体には意味があります。
問題は、その要素が「一事情」にとどまるのか、事実上、越えなければならない一律の最低線になるのかです。
平均値は、生活維持に必要な最低額と同じではありません。
地域、住居費、子育て、介護、病気、離職など、家計の事情は大きく異なります。地方の産業や介護、宿泊、製造など、日本社会を支えてきた仕事ほど賃金水準が高くない場合もあります。
長く働き、税や社会保険料を納めてきた人であっても、統計上の平均に届かないというだけで永住への道が大きく狭まるなら、制度の合理性には丁寧な説明が必要です。
すべての申請者に同じ収入要件がかかるわけではない

もう一つ、誤解しやすい点があります。日本人、永住許可を受けている者または特別永住者の配偶者・子については、入管法第22条第2項ただし書により、素行善良要件と独立生計要件への適合が求められていません。
そのため、独立生計要件について示された「日本人世帯の平均収入を上回る水準」が、すべての永住許可申請者に一律に適用されるという理解は正確ではありません。
もっとも、経済状況や法令違反等が国益要件の中で考慮される可能性はあり、収入や素行が審査と無関係になるわけではありません。
もっとも、改定案は、こうした独立生計要件の適用を受けない人についても、現に公共の負担となっている場合や、そのおそれが現実的な場合には、国益要件の中で消極的に評価することがあるとしています。
その際は、家族単位での在留の安定や人道的配慮を重視して総合判断するとされました。
原則10年在留に関する配偶者特例も大きく変わります。
現行の「実体を伴う婚姻生活3年以上、かつ日本在留1年以上」から、「婚姻生活5年以上、かつ日本在留3年以上」へ延長する案です。
収入だけに目を奪われがちですが、実務への影響はこちらも小さくありません。
「人材獲得のインセンティブ」と両立するのか

入管庁は、永住者を活動と在留期間の制限がない最も安定した法的地位と位置づけ、慎重な審査が必要だと説明しています。
同時に、永住制度は外国人材を呼び込むインセンティブとなり、国際的な人材獲得競争にも資するとしました。
私は、この二つが本当に両立するのか、立ち止まって考える必要があると思います。
外国人が働く国を選ぶとき、目先の賃金だけでなく、家族と安定して暮らせるか、老後まで生活の見通しを持てるかも重要です。
働き手としては受け入れる一方、平均以上の収入や将来の年金を得られる人だけに定着の道を開くのであれば、「労働力として必要な間だけ受け入れる制度ではないか」という批判が出るのは自然です。
これから永住申請を考える人が確認すべきこと

今回公表されたのは、まだ改定案です。パブリックコメントは2026年9月3日まで受け付けられています。
概要資料では、改定全体は2027年4月から、収入に関する要素は2026年10月から適用する予定とされています。
本文案では、収入と「公共の負担」に関する要素について、改定日の6か月前以降に申請され、改定日に審査中の案件にも適用する規定が置かれています。
現在申請中の方や近く申請を予定している方は、世帯構成、扶養親族、収入の推移、年金記録、金融資産、在留期間、日本語能力、子どもの就学状況、公租公課の支払状況を一体として確認する必要があります。
ただし、具体的な基準額や証明方法がまだ示されていないため、報道だけを根拠に申請を諦めたり、逆に急いで形式的に提出したりするのは避けた方がよいでしょう。
永住許可は、同じ年収でも家族構成や在留歴によって評価が変わります。
個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
おわりに

永住とは、日本に長く暮らしてきた人が、これからも社会の一員として生活するための地位です。経済的な安定を確認する必要性は理解できます。
それでも、人の暮らしを一つの平均値だけで測る制度になってはいけない。
今回の意見募集では、その線引きの根拠と、個別事情をどこまで丁寧に見るのかが問われています。
在留資格申請や永住申請の判断は、制度の文言だけでなく、実際の在留状況、家族構成、収入や納付状況によって結論が変わります。
申請時期を含めて判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
記事末尾の整理
【結論】
改定案は、平均収入を下回った場合の自動的不許可を明記してはいません。ただし、平均収入と将来年金を強い考慮要素として示しており、実務上、永住許可のハードルが大きく上がる可能性があります。
【根拠】
入管法第22条第2項、出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定案」および同概要に基づきます。弁護士側の法的批判は、弁護士JPニュースの会見記事を参考に整理しました。
【注意点・例外】
改定案は最終決定前です。具体的な年収額、参照統計、判定期間、証明方法、例外運用は明らかになっていません。日本人・永住者・特別永住者の配偶者や子など、独立生計要件が法律上免除される類型もありますが、公共負担の有無は国益要件で考慮され得ます。
【出典】
一次情報
- e-Govパブリック・コメント「永住許可に関するガイドライン改定案に係る意見募集について」
- 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定案」
- 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定(案)(概要)」
参考情報
特定技能ビザをはじめとする各種ビザ・在留資格のご相談や代行申請はホームページのお問い合わせフォームをはじめ、お電話・LINE・Facebook・Instagramからもお問い合わせが可能です。
また、当事務所のYouTubeチャンネル「ビザ新潟ちゃんねる」も更新中です。興味のある方はYouTubeもぜひのぞいてみてください。
ビザ新潟ちゃんねる
以上、新潟市のビザ専門行政書士事務所、Asocia行政書士法務事務所でした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
新潟のビザ・入管業務のことならお任せ下さい。
ビザの相談・申請代行専門
Asocia行政書士法務事務所
新潟県初の登録支援機関(19登-000085)
代表行政書士 播磨 史雄
住所:新潟市西区平島2丁目13-11 2F
℡:025-201-7514
mail:info@fumio-h-office.com
総合ホームページ:https://fumio-h-office.com/
新潟ビザ相談センター:https://visa-asocia.com/
新潟県お酒の販売許可申請代行センター:https://www.sakemenkyo.com/
一般社団法人設立専門ページ:https://niigata-syadan.com
新潟成年後見相談センター:http://www.niigata-seinenkouken.com/
LINEからの相談は『24時間365日』受け付けています。
【※ご注意】ご依頼に関する相談料は初回無料ですが、ブログ記事に内容に関するご質問やご依頼に関係ないご相談は有償となります。
友達追加してお気軽にご相談ください。
対応エリア
新潟県全域・福島県全域・山形県全域
上記エリア以外でも当事務所はオンライン申請に対応しております。

