この記事のポイント

- 日本で働くベトナム人の人数は、直近の公的統計では減少していない
- N4相当は、外国人全員の在留期間更新に一律で課される要件ではない
- 在留資格変更・更新の「10万円」は法定上限で、入管庁が示す実額案の上限は7万5,000円
ベトナム人の「日本離れ」は本当に起きているのか

クーリエ・ジャポンが、ベトナム紙VnExpressの記事をもとに、日本を希望するベトナム人材が激減していると報じました。
円安、物価上昇、制度変更、手数料の引上げ。外国人雇用の現場にいると、「日本に来たい人はいつでもいる」という前提が、もう通用しないことは肌で感じます。
ただし、報道には制度上の重要な誤解も含まれています。まず事実を分けて見る必要があります。
「激減」とまでは言えない—人数は今も増えている

厚生労働省の「外国人雇用状況」によると、2025年10月末時点で日本で働くベトナム人は60万5,906人でした。前年の57万708人から約3万5,000人、率にして約6.2%増えています。
国籍別では、現在もベトナムが最多です。厚生労働省「外国人雇用状況」
一方、外国人労働者全体に占める割合は24.8%から23.6%へ低下しました。
ベトナム人が減ったというより、他国籍の伸びがさらに大きく、人材供給国が多様化していると読む方が正確です。
VnExpressの記事では、ある人材会社の技能実習関係の取扱件数が2026年前半に30~50%減少したと紹介されています。
これは現場の変化を示す重要な情報ですが、あくまで一社の取扱実績です。
全国の応募者が同じ割合で減ったことを示す統計ではありません。
2026年前半の全国的な減少幅は、現時点ではわかりません。
現在働いている人数は増えている。
しかし、新規募集の勢いや、日本の相対的な位置は弱まりつつある可能性がある。
この二つは分けて考えるべきです。
就労意欲は高いが、「長く働く」とは限らない

マイナビグローバルが2026年7月に公表した調査では、在留外国人の95.8%が「今後も日本で働きたい」と回答し、前年より3.5ポイント上昇しました。
ところが、5年以上働きたい人は61.6%で、前年より14.7ポイント低下。ベトナム人材では低下幅が18.4ポイントに達しました。
他国での就労に関心がある人も83.7%です。
マイナビグローバル調査
ここから見えるのは、「今すぐ日本を離れたい」という単純な動きではありません。
日本だけを唯一の選択肢とは考えず、長期定着にも以前ほどこだわらない。
そうした変化ではないでしょうか。
なお、この調査は日本に在留する1,732人を対象とした民間のインターネット調査です。
すでに日本で暮らしている人の意識を測ったものであり、ベトナム国内の来日希望者数を直接示すものではありません。
N4は「すべてのビザ更新」に必要なのではない

報道では、2027年4月以降、在留期間を更新する際に日本語能力試験N4以上が必要になるかのように説明されています。
この表現は正確ではありません。
2027年4月1日に始まる育成就労制度では、就労開始前にA1相当の日本語能力を確認し、育成就労から特定技能1号へ移行する際に、原則としてA2相当以上の試験、具体的には日本語能力試験N4などへの合格が求められます。
技能に関する試験も必要です。
出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
これは育成就労から特定技能1号へ進むための移行要件であり、外国人全員の在留期間更新にN4を義務付ける制度ではありません。
不合格の場合も、一定の要件のもと、最長1年の範囲で在留継続が認められる可能性があります。
「在留資格変更」と日常的な「ビザ更新」を一括りにすると、不必要な不安を生みます。
10万円は実際の更新手数料ではなく「法定上限」

手数料についても、二つの制度が混ざっています。
2026年7月1日に実施されたのは、主に海外の日本大使館・総領事館で申請する査証の発給手数料です。一次有効査証は約1万5,000円、数次有効査証は約3万円となりました。
外務省「査証手数料」
これに対し、日本国内で行う在留資格変更・在留期間更新の現行手数料は、窓口6,000円、オンライン5,500円です。2026年10月1日の施行に向けて入管庁が示している案では、許可される在留期間に応じ、窓口で1万円から7万5,000円、オンラインでは最大6万5,000円とされています。
1年の許可であれば、窓口3万3,000円、オンライン2万7,000円です。
e-Gov掲載資料
改正法の10万円は変更・更新手数料の法定上限であり、一律10万円を支払う制度ではありません。もっとも、1年更新が続く人や家族にとって、案の金額でも負担が重いことに変わりはありません。
2026年7月23日現在、関連する減額ガイドラインは意見募集の段階です。
最終的な取扱いは、公布される政令やガイドラインを確認する必要があります。
数字の誤りを直しても、警告は消えない

報道の制度説明を修正したからといって、日本が選ばれにくくなっているという警告まで否定するべきではないと考えます。
外国人材が比較するのは、額面の給料だけではありません。
送出費用を返済した後にいくら残るのか。どのようなキャリアがあるのか。家族と暮らせるのか。更新の見通しが立つのか。すべてが就労先を決める材料になります。
企業からは「外国人を採用できますか」とよく聞かれます。
これからは、その次の質問がもっと重要になります。
「この会社で3年、5年働いた先に、本人は何を得られるでしょうか」。
短期的な労働力として見るだけでは、採用できても定着しません。
給与、住居、日本語学習、特定技能2号へのキャリア、家族生活まで設計できる企業が、結果として選ばれるのだと思います。
日本離れではなく、「日本を選ぶ条件」が厳しくなった

ベトナム人労働者は今も増えています。日本で働きたい人も多い。一方で、長期就労の希望は弱まり、他国との比較も進んでいます。
したがって、現状を「一斉の日本離れ」と断定するのも、「まだ人数が増えているから問題ない」と楽観するのも、どちらも違います。
より正確に言えば、日本を選ぶための条件が以前より厳しくなったということです。
制度を厳しくし、負担を増やすのであれば、働く価値、暮らす安心、将来の見通しも示さなければなりません。
選ばれるかどうかは、受入れ企業の日々の姿勢にもかかっています。
在留資格申請や外国人雇用は、国籍や在留資格だけで一律に判断できません。
育成就労から特定技能への移行、日本語要件、更新時期や手数料負担に迷う場合は、制度が動く前に専門家へ確認することをおすすめします。
4. 記事末尾の整理
【結論】
ベトナム人労働者の人数は直近統計で増加しており、「激減」とは断定できません。ただし、長期就労希望の低下や他国への関心の高さから、日本の相対的な魅力が弱まっている兆候はあります。問題の本質は、一斉の日本離れではなく、日本を選ぶ条件が厳しくなったことです。
【根拠】
- 2025年10月末のベトナム人労働者は60万5,906人で、前年から増加
- 日本で働きたい在留外国人は95.8%だが、5年以上の就労希望は61.6%に低下
- 育成就労から特定技能1号への移行には、原則としてA2相当、N4等が必要
- 変更・更新手数料の10万円は法定上限で、入管庁案の実額上限は窓口7万5,000円
【注意点・例外】
- 一社の申請取扱件数を、全国の来日希望者数と同一視することはできません
- すべての在留期間更新にN4が必要なわけではありません
- 経過措置、試験不合格時の在留継続、手数料の減額対象は個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です
- 手数料額や減額の取扱いは、2026年7月23日時点で案を含みます
【出典】
一次情報
- 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ
- 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
- 出入国在留管理庁「育成就労制度の関係省令等について」
- e-Gov「在留許可手数料の額及び減額又は免除の対象者等について」
- 外務省「査証手数料」
参考情報・民間調査
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