在留外国人の納税情報が、入管審査でより見られる時代に
令和8年6月30日、出入国在留管理庁と国税庁は「在留外国人に関する情報連携に関する確認書」を公表しました。
適用開始日は令和8年7月1日です。今回の確認書により、令和2年6月18日付の旧確認書は廃止されます。
この文書を読むときに大切なのは、「税金を少しでも滞納したら、すぐに在留資格が不許可になる」という単純な話にしないことです。
確認書が対象としているのは、国税庁が把握する「納税の義務に関する悪質な違反」です。
入管庁はその情報を受け、在留資格に係る諸申請があった際に慎重な審査を行う、という構造です。
この記事のポイントは、次の3点です。
- 国税庁から入管庁へ、悪質な納税義務違反の情報が提供される
- 入管庁はその情報を、変更・更新・永住などの審査で活用する
- 特に「経営・管理」や「高度専門職1号ハ」では、税務コンプライアンスの重要性がさらに高まる
今回の確認書で何が決まったのか

確認書の基本方針では、外国人の在留の公正な管理と、内国税の適正・公平な賦課徴収を目的として、入管庁と国税庁が相互に協力することが明記されています。根拠として、入管法、国税通則法、国税徴収法の協力要請に関する規定が挙げられています。
国税庁側は、入管庁からの求めに応じて、在留資格をもって在留する外国人のうち、納税義務に関する悪質な違反があった者について、入管庁へ情報を提供します。
一方、入管庁側は、国税庁から提供を受けた情報を活用し、在留資格に係る諸申請の際に慎重な審査を行うとされています。
ここでいう「在留資格に係る諸申請」には、在留期間更新、在留資格変更、永住許可、在留資格認定証明書交付などが含まれると考えるのが自然です。
ただし、確認書自体が個別の申請類型ごとの取扱いを細かく示しているわけではありません。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
補足書簡で見えてくる実務上の焦点

今回、確認書と同日に補足書簡1と補足書簡2も公表されています。
ここが実務上はかなり重要です。
補足書簡1では、当分の間、入管庁が国税庁に求める情報として、消費税の不正還付に関して重加算税の賦課決定処分を行った事案のうち一定のもの、所得税・法人税等の重加算税の賦課決定処分を行った事案のうち一定のものが挙げられています。
さらに、入管庁は「経営・管理」の在留資格基準の明確化において、消費税の不正還付や所得税・法人税等に関して重加算税の賦課決定処分を受けた機関を運営する者について、特に消極的な要素として評価される旨を明示するとされています。
これは、外国人経営者にとってかなり重い意味を持ちます。
経営・管理ビザでは、事業の継続性や安定性だけでなく、法令遵守の姿勢そのものが見られます。
売上がある、資本金がある、事務所がある。それだけでは足りません。税務処理が乱れている会社は、在留審査上も信頼を失いやすいということです。
特に注意すべき在留資格

補足書簡2では、入管庁が国税庁に提供する「一定の在留資格や在留期間に該当する在留外国人」として、「経営・管理」または「高度専門職1号ハ」の在留資格をもって在留する外国人が明記されています。
また、別表第一の在留資格のうち、外交、公用、高度専門職、文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在を除く在留資格をもつ外国人も対象として示されています。
ただし、具体的な条件の一部は不開示です。
この点から見ると、最も影響を意識すべきなのは、外国人経営者、個人事業主、会社役員、そして就労系在留資格で長く日本に在留している方です。
特に経営・管理では、消費税還付、源泉所得税、法人税、所得税の処理に注意が必要です。
税理士に任せているから大丈夫、という感覚だけでは危ない場面があります。
代表者本人が制度を理解していない場合でも、入管審査では「経営者として適切に事業を管理していたか」という見方をされることがあります。
住民税や社会保険料とは分けて考える

今回の確認書は、あくまで国税庁との情報連携です。国税とは、所得税、法人税、消費税、源泉所得税などを中心とする国の税金です。
住民税は地方税であり、国民健康保険料や年金保険料もまた別の制度です。
ただし、在留資格の変更・更新のガイドラインでは、納税義務を履行していることが審査上の考慮要素とされています。納税義務を履行していない場合は消極的な要素として評価され、高額の未納や長期間の未納など悪質なものも同様に扱われます。
永住許可でも、公的義務の履行は非常に重要です。
令和8年2月改訂の永住許可ガイドラインでは、申請時点で納付済みであっても、本来の納付期限内に履行されていない場合は、原則として消極的に評価されるとされています。
つまり、今回の確認書だけを見て「国税だけ気を付ければよい」と考えるのは危険です。実務では、所得税、法人税、消費税、住民税、年金、健康保険、入管法上の届出義務まで、全体として見られます。
行政書士として現場で伝えたいこと

在留資格の相談では、「税金はあとで払えば大丈夫ですか」と聞かれることがあります。
もちろん、未納があるなら早く納付することは大切です。
しかし、在留審査では「最終的に払ったか」だけでなく、「期限内に、継続して、適正に履行していたか」が問題になる場面があります。
特に外国人経営者の場合、消費税の還付申告や節税スキームの説明を受けても、それが在留資格にどう影響するかまでは十分に説明されていないことがあります。
税務上の判断と入管上の判断は、同じではありません。税務調査で重加算税が課された場合、それは単なる税務上のペナルティにとどまらず、在留資格の更新や変更に大きな影響を及ぼす可能性があります。
企業が外国人を雇用する場合も同じです。外国人本人の納税状況だけでなく、給与支払、源泉徴収、社会保険、労働条件の整備が、結果として在留審査の安定性につながります。
外国人本人だけに責任を押し付けるのではなく、会社側が制度を理解して管理することが必要です。
まとめ

今回の確認書は、在留資格と税務コンプライアンスがより強く結び付いていることを示すものです。特に、重加算税が関係するような悪質な税務違反は、在留審査上も深刻なリスクになります。
在留資格申請は、申請書を整えるだけの手続きではありません。日々の納税、社会保険、労務管理、届出義務の積み重ねが、申請時に表に出てきます。
普段の管理こそが、いちばん大切な在留資格対策なのだと思います。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容、会社の税務・労務管理、過去の申請履歴によって結論が変わることがあります。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
4. 記事末尾の整理
【結論】
国税庁と入管庁の情報連携により、悪質な納税義務違反、とくに重加算税を伴う事案は、在留資格の変更・更新・永住等の審査で慎重に見られる可能性が高まります。経営・管理や高度専門職1号ハでは特に注意が必要です。
【根拠】
令和8年6月30日付確認書では、国税庁が悪質な納税義務違反に関する情報を入管庁へ提供し、入管庁が在留資格に係る諸申請で慎重審査を行うことが明記されています。補足書簡では、当面の対象として消費税不正還付や所得税・法人税等に関する重加算税事案が示されています。
【注意点・例外】
今回の連携は国税庁との情報連携であり、住民税や社会保険料そのものを直接対象とする文書ではありません。ただし、在留資格変更・更新や永住許可では、納税義務・公的義務の履行状況が別途審査されます。また、補足書簡2には不開示部分があり、具体的な対象条件の全体は公開情報だけではわかりません。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
国税庁「在留外国人に関する出入国在留管理庁と国税庁との間の情報連携に関する確認書」令和8年6月30日。
国税庁「同確認書に係る補足書簡1」令和8年6月30日。
国税庁「同確認書に係る補足書簡2」令和8年6月30日。
出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」。
出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」令和8年2月24日改訂。
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