大阪ミナミの摘発報道から考える「不法残留」の重さ
報道によれば、2026年6月28日、大阪市中央区の雑居ビルに大阪府警などが約170人態勢で捜索に入り、ベトナム国籍の男女7人が入管難民法違反、不法残留の疑いで逮捕されました。
現場はベトナム料理店、ナイトクラブ、カラオケ店などが入るビルで、違法薬物の可能性がある粉末も多数押収されたとされています。
ただし、薬物に関する具体的な鑑定結果や、逮捕された7人が薬物事件に関与したかどうかまでは、現時点の報道だけでは断定できません。ここは慎重に分けて見る必要があります。
今回、在留実務の立場から注目すべきなのは、「技能実習生などの在留資格で入国し、在留期限が切れた後も日本に残っていた」とされる点です。
不法残留は、単なる「期限切れ」ではありません。
入管法上は退去強制手続や刑事手続の対象となり得る重大な違反です。
出入国在留管理庁も、不法残留状態で出頭申告をしても、直ちに違法状態が解消されるわけではないと説明しています。
「まじめに働いていた」は抗弁にならない

行政書士として相談を受けていると、外国人本人から「悪いことをするつもりはなかった」「働きたかっただけです」という声を聞くことがあります。
もちろん、背景には借金、送出し費用、職場とのミスマッチ、日本語で相談できない孤立など、制度だけでは片づけられない事情があることもあります。
しかし、入管実務では、在留期限を過ぎた状態で日本に残ること自体が問題になります。たとえ本人が生活のために働いていたとしても、在留資格が切れていれば、適法な就労にはなりません。
出入国在留管理庁のQ&Aでも、法務大臣から特別に在留が認められない限り、入管法違反の状態に変わりはなく、原則として就労も認められないとされています。
ここは、外国人本人にも、受入企業にも、かなり厳しく伝えなければならない部分です。「期限が少し過ぎただけ」「あとで更新すればよい」という感覚は、在留資格の世界では通用しません。
不法残留者数は減少しているが、現場のリスクは消えていない

出入国在留管理庁の公表によれば、令和8年1月1日現在の不法残留者数は6万8,488人で、前年同時点より6,375人、8.5%減少しています。
数字だけを見ると改善しているようにも見えますが、現場感覚としては「減っているから安心」とは言い切れません。
令和7年の入管法違反事件に関する公表資料では、退去強制手続等を執った外国人のうち、不法就労事実が認められた者は1万3,435人で、全体の72.9%を占めています。
また、不法就労者の国籍・地域別ではベトナムが5,872人と最も多いとされています。
ただし、この数字をもって「ベトナム人が危ない」と短絡するのは誤りです。
日本で働き、学び、地域を支えている多くのベトナム人がいます。問題にすべきなのは国籍ではなく、失踪や不法就労が起きやすい構造、そしてそれを利用する周辺ビジネスや犯罪的ネットワークです。
外国人コミュニティは支えにもなり、リスクの入口にもなる

今回の報道では、現場となったビルにベトナム関連の店舗が複数入っていたとされています。
外国人にとって、母国語が通じる飲食店やコミュニティは、孤独を和らげる大切な場所です。
仕事、住まい、病院、送金、生活情報。日本語が十分でない人にとって、同国人ネットワークは命綱のような役割を持つこともあります。
一方で、そのネットワークが閉じすぎると、在留資格の更新、退職後の手続、転職時の注意点について、正確な情報よりも噂が優先されてしまうことがあります。
「大丈夫」「みんなそうしている」「この仕事なら見つかる」と言われ、気づいたときには不法残留や不法就労から戻れないところまで進んでいる。実務では、そうした相談も珍しくありません。
警察庁の令和7年における組織犯罪情勢でも、一部の素行不良者がSNS等を介して犯罪組織を形成する事案がみられると整理されています。
ここでも重要なのは、外国人コミュニティ全体を疑うことではなく、孤立した人が違法な誘いに流れ込まない仕組みを作ることです。
企業が見るべきは「雇う前」と「辞めた後」

外国人雇用の場面では、採用時の在留カード確認がよく言われます。
これは当然必要です。
警視庁も、在留カード確認をしていないなどの過失がある場合、不法就労者であることを知らなかったとしても処罰対象になり得ると説明しています。
ただ、実務上は「雇う前」だけでは足りません。
雇用後の在留期限管理、業務内容の変更、退職時の説明、転職先が決まらない場合の案内まで含めて、企業の外国人雇用管理です。
技能実習や特定技能の場合、受入機関、監理団体、登録支援機関の関与もあります。
制度上の役割を果たさないまま、本人だけを責めるのは公平ではありません。
特に退職時は危険です。本人が「次の仕事を探す」と言って退職した後、在留資格上の手続を理解していないまま時間が過ぎることがあります。
会社としては雇用関係が終われば終わり、ではなく、少なくとも在留資格上の注意点を母国語資料や専門家相談につなぐ程度の配慮は、今後ますます重要になると感じます。
不法残留者本人に伝えたいこと

すでに在留期限が切れている場合、放置するほど状況は悪くなります。
入管庁は、一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま簡易な手続で出国させる出国命令制度を説明していますが、対象となるには、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと、過去に退去強制や出国命令を受けていないこと、速やかに出国が確実と見込まれることなどの要件があります。
つまり、「出頭すれば必ず軽くなる」という話ではありません。
個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。特に、刑事事件、薬物、偽造在留カード、不法就労のあっせん、虚偽申請などが絡む場合は、行政書士だけでなく弁護士との連携が必要になる場面もあります。
まとめ

今回の大阪の報道は、単に「外国人が逮捕された」という話ではありません。技能実習などで来日した人が、在留期限後も日本に残り、同国人コミュニティの中で生活を続け、別事件の捜査をきっかけに摘発されたという構図が見えます。
外国人雇用は、日本社会にとってすでに特別なものではありません。だからこそ、在留資格を「採用時の書類確認」で終わらせず、働いている間、辞めるとき、次の進路に移るときまで見ていく必要があります。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容、雇用管理、退職後の状況によって結論が変わることがあります。
判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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