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TOP > コラム > ベビーシッターを「技人国」で入国?虚偽申請事件から考える在留資格の境界線

ベビーシッターを「技人国」で入国?虚偽申請事件から考える在留資格の境界線

2026.06.24
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ベビーシッターを「技人国」で入国させた疑いという報道

報道によれば、中国人富裕層から依頼を受け、中国籍の女性ベビーシッターを日本に入国させるため、学歴や就業先を偽って在留資格「技術・人文知識・国際業務」を申請したとして、会社役員らが入管難民法違反の疑いで逮捕されたとされています。

容疑者側は否認しているとのことなので、現時点ではあくまで「逮捕容疑」であり、有罪が確定した事案ではありません。

ただ、この報道は、外国人雇用や富裕層向け移住支援に関わる実務者にとって、かなり重い意味を持ちます。

なぜなら、問題の中心は「ベビーシッターが必要かどうか」ではなく、「その活動を、どの在留資格で日本に入れるのか」という点にあるからです。

技術・人文知識・国際業務は、便利な就労ビザではない

「技術・人文知識・国際業務」は、いわゆるホワイトカラー系の就労資格です。出入国在留管理庁も、この在留資格について、学術上の素養を背景とする技術・知識を要する業務、または外国文化に基盤を有する思考・感受性を必要とする業務に従事するものとして整理しています。

令和8年4月15日にも、同在留資格に関する明確化資料が一部改正・更新されています。

実務上よくある誤解は、「外国語を使う」「外国人顧客に対応する」「海外富裕層向けサービスだから国際業務だ」と考えてしまうことです。

しかし、在留資格の審査では、看板や事業目的ではなく、本人が実際に行う業務内容が見られます。たとえば、実態として子どもの世話、送迎、食事の準備、家事補助、家庭内の身の回りの世話が中心であれば、それは通常、技人国の専門業務とは整理しにくい領域です。

もちろん、保育、教育、通訳、富裕層向けコンシェルジュ業務などが絡む場合、個別事情によって検討余地が出る場面はあります。

ただし、その場合でも「名目上の職務」では足りません。学歴・職歴との関連性、業務の専門性、勤務先の実態、報酬、指揮命令関係を丁寧に説明する必要があります。

家事使用人には、別の制度が用意されている

外国人の家事使用人については、出入国在留管理庁が「特定活動」の枠組みで案内しています。

たとえば、高度専門職外国人と共に入国する家事使用人、13歳未満の子がいるなど一定の家庭事情がある高度専門職外国人に雇用される家事使用人、特別高度人材外国人に雇用される家事使用人など、類型が分かれています。

ここで大事なのは、日本の制度が「外国人家事使用人を一切認めない」としているわけではない点です。

認める場面はあります。ただし、それは一定の要件を満たした場合に、一定の在留資格・告示類型で認めるという仕組みです。つまり、家事使用人としての実態があるなら、原則としてその実態に合う制度で検討すべきであって、技人国という別の器に入れて申請することは危険です。

入管業務では、この「器を合わせる」という感覚がとても重要です。料理を入れる皿が違えば、見た目は整っていても、審査では違和感が出ます。

虚偽申請は、本人だけの問題では終わらない

今回の報道で特に注目すべきなのは、申請人本人ではなく、支援したとされる会社役員らが逮捕されている点です。

入管法では、偽りその他不正の手段により上陸許可等を受けた場合、刑罰の対象となり得ます。
入管法では、出入国管理及び難民認定法第70条に、偽りその他不正の手段により上陸許可等を受けて本邦に上陸した者などに関する罰則が定められています。

さらに、営利目的でその実行を容易にした者についても、入管法上、処罰対象となり得ます。過去の法改正に関する資料でも、偽りその他不正の手段による上陸・在留資格取得について、本人だけでなく、営利目的で実行を容易にした者を処罰対象とする趣旨が整理されています。

これは、行政書士、紹介会社、雇用企業、コンサル会社にとって非常に重い話です。

「本人がそう言っていたから」
「依頼者が強く希望していたから」
「他社もやっていると聞いたから」

こうした理由では、虚偽申請への関与リスクを避けることはできません。むしろ、専門家や支援事業者であればあるほど、実態確認の責任は重く見られます。

富裕層向け移住支援ビジネスで起こりやすい危うさ

近年、日本での教育、医療、生活環境、不動産、法人設立を組み合わせて、海外富裕層向けに移住支援を行うビジネスが増えています。ここ自体は、適法に設計すれば問題ありません。

ただ、現場感覚としては、富裕層向けサービスほど、在留資格の設計があいまいになりやすいと感じます。

たとえば、次のような相談です。

子どもの世話をする人も連れてきたい。
家事をしてくれる人も必要。
会社を作るので、その会社の従業員という形にできないか。
実際は家庭で働くが、職務内容は秘書や通訳にできないか。

このような話が出た時点で、かなり慎重に見なければなりません。会社に雇用されている形式でも、実際の勤務場所が家庭で、実際の業務が育児・家事であれば、書類上の職名だけで技人国にするのは危険です。

在留資格審査は、形式だけを見るものではありません。雇用契約書、職務内容説明書、会社案内、業務実態、給与の流れ、勤務場所、本人の経歴が一つの線でつながっているかを見ます。どこかに無理があると、後から大きな問題になります。

企業・支援者が確認すべき実務ポイント

外国人を雇用する企業や、移住支援に関わる事業者は、少なくとも次の視点を持つ必要があります。

第一に、実際の業務内容を先に確定することです。先に在留資格を決めて、あとから業務を寄せるのでは順番が逆です。

第二に、本人の学歴・職歴と業務の関連性を確認することです。技人国では、専門性と業務内容の接続が重要になります。

第三に、家庭内労働、家事、育児、単純作業に近い業務を、無理に技人国へ乗せないことです。該当性が疑わしい場合は、特定活動の家事使用人、別の在留資格、またはそもそも日本での受入れが難しい可能性を検討すべきです。

第四に、申請書類の表現を「整える」ことと、事実を「作る」ことを混同しないことです。行政書士の仕事は、実態を法制度に沿って整理し、正確に伝えることです。実態と違うストーリーを作ることではありません。

この事件が示すもの

今回の報道は、単なる一つの逮捕事案にとどまりません。

外国人材の受入れが広がる一方で、在留資格を「目的達成のための道具」として扱うビジネスには、今後さらに厳しい目が向けられると思います。特に、富裕層向け、法人設立、移住支援、家族帯同、生活支援が絡む案件では、制度のすき間を狙うような設計になっていないか、早い段階で確認する必要があります。

在留資格は、生活上のニーズに合わせて自由に選べるものではありません。日本で行う活動に対して、制度がどの資格を認めているかを確認するものです。

ここを間違えると、申請人本人、雇用主、支援会社、専門家の全員が傷を負う可能性があります。

在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容や雇用管理の状況によって結論が変わることがあります。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

記事末尾の整理

【結論】
ベビーシッターや家事使用人としての実態がある外国人を、形式上「技術・人文知識・国際業務」として申請することは、在留資格該当性と虚偽申請の両面で重大なリスクがあります。必要なのは、希望する結論に書類を合わせることではなく、実態に合う在留資格を選ぶことです。

【根拠】
出入国在留管理庁は「技術・人文知識・国際業務」について、令和8年4月15日に明確化資料を一部改正・更新しています。
外国人家事使用人については、出入国在留管理庁が「特定活動」の枠組みで高度専門職外国人等に係る類型を案内しています。
入管法上、偽りその他不正の手段による上陸許可等は刑罰の対象となり得ます。

【注意点・例外】
保育、教育、通訳、秘書、コンシェルジュ業務などが含まれる場合でも、実際の中心業務が何かによって判断は変わります。個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。今回の報道事案は逮捕段階であり、容疑者は否認しているため、有罪を前提にした断定はできません。

【出典】
出入国在留管理庁「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について
出入国在留管理庁「在留資格『特定活動』(家事使用人)」
e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法」
報道記事「ベビーシッター不正入国させたか 会社役員ら逮捕、中国富裕層向け」

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