地方では高度外国人材を採用できないのか
「外国人の技術者を採用したいけれど、地方企業には来てもらえないのではないか」
新潟県内の企業からも、このような声を聞くことがあります。
給与水準、交通の便、都市部ほど多くない外国人コミュニティ。地方には確かに不利な条件があります。
ただ、2026年9月7日にJETROが公表した島根県の調査と企業事例を見ると、地方だから採用できないというほど単純ではないことがわかります。
島根県では、外国人労働者全体に占める在留資格「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる技人国の割合は6%台で、全国の約18%を大きく下回っています。
一方、2023年から2024年にかけての技人国人材の増加率は、全国の12.3%に対して島根県は23.2%でした。母数の違いには注意が必要ですが、地方でも専門人材の受入れが動き始めていることは確かです。
厚生労働省によれば、2025年10月末の外国人労働者数は257万1,037人で過去最多となりました。外国人採用は、一部の大企業や都市部だけの話ではなくなりつつあります。
この記事のポイント

- 技人国人材は、単なる現場作業の補充要員として採用することはできない
- 採用前に職務内容と受入れ体制を設計することが、許可と定着の両方につながる
- 日本語教育は日常会話だけでなく、職場で使う専門用語まで考える
- 住居、通勤、相談相手といった生活面が離職リスクを左右する
技術者8人の一括採用を支えた「受け入れる側」の準備

JETROが紹介した島根電工は、2025年5月、初めての外国人採用でベトナム人技術者8人を一括採用しました。注目したいのは人数よりも、入社前から準備に時間をかけた点です。
同社は2023年に国際人財開発室を設置しました。
入社のおよそ7か月前から、社長を含む本社社員と配属先責任者を対象に全13回の講座を行い、ベトナムの歴史や文化、簡単なベトナム語、「やさしい日本語」を学んでいます。
さらに、日本語が堪能なベトナム人社員をメンターとして採用し、日本人社員との橋渡し役を置きました。
外国人本人だけに「日本の職場に合わせてください」と求めるのではなく、受け入れる側も学ぶ。ここが非常に大切だと感じます。
実務では、採用が決まってから慌てて住居を探し、配属先には入社直前に伝えるというケースもあります。
しかし、職場側が本人の業務や育成方針を理解していなければ、せっかく許可を得ても「何を任せればよいかわからない」という状態になりかねません。
技人国の申請では、まず仕事の中身を決める

JETROの記事では「高度外国人材」という言葉が使われていますが、統計上は、その中核となる技人国の在留資格保有者に範囲を絞って分析しています。
法律上の在留資格「高度専門職」と、一般的な意味での「高度外国人材」は同じではありません。
技人国で働くためには、予定する仕事が自然科学・人文科学の知識、または外国文化に基盤を持つ思考や感受性を必要とする業務でなければなりません。
学歴や職歴と業務との関係、日本人と同等額以上の報酬なども審査されます。
建設会社であれば、設計、CAD、積算、施工管理などは検討対象になりますが、名称だけで決まるものではありません。実際の中心業務が資材運搬や組立てなどの単純な現場作業であれば、技人国の活動に該当しない可能性があります。
「技術者として採用する」と雇用契約書に書けば足りるわけではなく、一日の仕事、配属先、指揮命令、将来の育成まで具体化する必要があります。
個別事情により判断が分かれるため、採用前に本人の専攻・職歴と職務内容を照合し、専門家へ確認することが重要です。
日本語教育は「生活」と「専門業務」の二層で考える

島根電工では、入社後の研修に一般日本語90分を20回、電気工事用語などの専門日本語90分を20回組み込んでいます。
2026年度の採用者にはCAD研修も強化し、前年に入社したベトナム人社員がベトナム語で教える仕組みも取り入れました。
日常会話ができても、図面の指示、安全上の注意、工程会議の表現は別の壁です。特に建設・製造分野では、曖昧な理解が事故や品質問題につながります。
日本語能力試験の級だけを見るのではなく、その職場で必要な言葉を洗い出す方が実務的でしょう。
定着を左右するのは、仕事の外側にもある

同じ特集で紹介された島根県内の空調設備会社では、外国人社員の寮をルームシェア形式にしたことが、かえってストレスの要因になった可能性があると振り返っています。
孤独を避けるための善意が、本人にとっては私生活を確保しにくい環境になることもあります。
島根電工では、通勤用の電動アシスト自転車、運転免許取得費用の無利子貸付け、年1回の帰国費用補助などを既存の福利厚生制度から発展させています。
すべての企業が同じ支援を用意する必要はありません。
ただし、地方では車がなければ通勤や買い物が難しい地域も多く、住居と交通は採用条件の一部と考えた方がよいでしょう。
技人国には、特定技能1号と同じ支援計画の仕組みはありません。
それでも、制度上の義務がないことと、支援が不要であることは別です。
相談先がない、職場の指示が理解できない、生活が不便。この小さな負担の積み重ねが、ある日突然の退職に見えることがあります。
新潟企業にも可能性はある。ただし、採用をゴールにしない

JETROの分析では、新潟県は、同程度のホワイトカラー職種比率を持つ都道府県と比べ、技人国人材の割合が高い傾向にある地域として挙げられています。
その理由までは公表資料から断定できません。
それでも、製造業、建設業、農業関連産業が集積し、海外取引やDXへの対応が必要な新潟企業にとって、外国人の専門人材が活躍できる余地は小さくありません。
必要なのは「人が足りないから外国人を入れる」という発想から少し離れ、その人の専門性でどの仕事を変えたいのかを考えることです。
在留資格の許可は採用の入口にすぎません。職務設計、配属先の理解、日本語教育、生活環境、将来のキャリアまでがつながって初めて、採用は定着に変わります。
島根の事例が示しているのは、地方企業の弱さではなく、準備の仕方によって地方ならではの働き方をつくれる可能性ではないでしょうか。
技人国人材の採用では、求人を出す前に、担当業務と必要な学歴・職歴の関係を整理することが大切です。
在留資格申請や外国人雇用の職務設計に迷う場合は、採用決定前の段階から専門家へ相談することをおすすめします。
記事末尾の整理
【結論】
地方企業でも技人国人材の採用は可能です。ただし、採用人数や在留資格の許可だけを成果にせず、専門性を生かす職務、配属前研修、専門日本語、メンター、住居・通勤を一体で設計する必要があります。
【根拠】
JETROが2026年9月7日に公表した島根県の統計分析と企業取材、厚生労働省の2025年10月末時点の外国人雇用状況、出入国在留管理庁の技人国に関する案内に基づいて整理しています。
【注意点・例外】
JETROの島根県企業の取組は個別事例であり、同じ支援策を導入すれば必ず採用・定着できるというものではありません。技人国の可否は、肩書ではなく実際の業務内容、本人の学歴・職歴、報酬、雇用の安定性などを踏まえて審査されます。新潟県で技人国比率が相対的に高い原因は、今回の公表資料だけではわかりません。
【出典】
一次情報
- 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)(2026年1月30日)
- 出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
- 出入国在留管理庁「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」(2026年4月15日一部改正)
公的機関の調査・企業事例
- JETRO「データで読み解く高度外国人材の雇用状況」(2026年9月7日)
- JETRO「技術者8名一括採用、受入体制整備に尽力」(2026年9月7日)
- JETRO「空調設備会社、人材起点でのベトナム進出」(2026年9月7日)
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