この記事のポイント

2026年8月25日、宮崎交通がバス運転士として採用したフィリピン人3人が宮崎県に到着したと報じられました。
同社が特定技能制度を活用して外国人バス運転士を採用するのは初めてで、2027年9月以降の運転士デビューを予定しているとされています。
外国人材というと、介護、建設、外食、製造などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし今後は、「外国人が路線バスを運転する」という光景も決して珍しいものではなくなっていく可能性があります。
ただ、ここで注意したいのは、外国人を採用して在留資格を取れば翌日からバスを運転できる、という制度ではないことです。
むしろ自動車運送業は、特定技能の中でもかなり独特な仕組みを持っています。
特定技能に「自動車運送業」が追加された背景

特定技能の対象に自動車運送業が追加されたのは2024年3月の閣議決定です。
対象となるのは、トラック、タクシー、バスの運転業務です。実際の受入れは関係する基準が整備された後に始まりました。
背景にあるのは、言うまでもなく深刻な運転手不足です。
政府資料では、自動車運送業分野について5年間で最大2万4,500人の特定技能外国人を受け入れる見込みとされています。
さらに政府の検討資料では、令和6年度からの5年間で自動車運送業全体に約28万8,000人の人手不足が見込まれるとの推計も示されています。
生産性向上や国内人材確保を進めてもなお不足する人材の一部を、外国人材で補うという制度設計です。
地方では、運転士不足がそのまま減便や路線廃止につながります。
「外国人材を採用するかどうか」という企業の人事問題だけではなく、地域住民が病院へ行けるか、学生が学校へ通えるかという生活インフラの問題になっている。
私は、この点が他の特定技能分野とは少し違うところだと感じています。
外国人バス運転士は来日後すぐには運転できない

日本の第二種運転免許が必要
バス運転者として特定技能1号で働くには、自動車運送業分野特定技能1号評価試験への合格に加え、日本の第二種運転免許が必要です。
さらに、バス・タクシーについては新任運転者研修も修了しなければなりません。
ここが制度上の難しいところです。
海外から人材を採用しても、日本に入国する前に日本の運転免許を取得しておくことは現実的ではありません。
そのため用意されているのが、
「特定活動(特定自動車運送業準備)」
という在留資格です。
この特定活動では、日本の運転免許取得のための教習や手続、新任運転者研修、車両清掃などの関連業務を行うことができます。
バス・タクシー運転者の場合、この準備期間として認められる在留期間は1年で、原則として更新できません。免許取得と新任運転者研修を終えたら、速やかに「特定技能1号」への変更申請を行う仕組みです。
採用企業にとっては、この「1年間」が非常に重要です。
単なる研修期間ではありません。運転免許、研修、日本語、生活支援、在留資格変更を並行して進める必要があります。
日本語能力も「N4なら誰でも運転できる」わけではない

バス運転士には、乗客への案内だけでなく、事故、急病人、運休、道路状況の変化など、想定外の場面への対応があります。
そのため日本語能力は重要です。
最新の分野別運用方針では、バス運転者について原則として日本語教育の参照枠B1相当以上の能力が求められています。
一方、A2.2相当の日本語能力であっても、日本語サポーターの配置など一定の追加措置を講じた場合には対象となる仕組みも設けられています。
離島・半島地域のバスについても、一定の条件下で特例的な取扱いがあります。
ここは「日本語要件がN4まで緩和された」とだけ理解すると危険です。
日本語能力が十分でない場合には、日本語学習プランの作成やサポート体制などがセットになります。
つまり制度が求めているのは、
「最低限の試験に合格している外国人を運転席に座らせること」
ではありません。
安全に運転し、乗客とコミュニケーションを取り、緊急時にも対応できるところまで企業側が育成することです。
採用してからが本当のスタート

特定技能というと、どうしても「在留資格が取れるか」が最初の関心になります。
行政書士として申請実務に携わっていると、この発想自体はよく分かります。
ただ、自動車運送業では、在留資格だけ見ていると全体像を見誤ります。
外国人本人の技能試験、日本語能力、日本の運転免許、新任運転者研修、受入れ企業側の要件、協議会への対応、1号特定技能外国人支援計画。
これらが一本につながって、初めて運転士として働けます。
特に海外採用の場合、「いつ入国できるか」だけではなく、「いつ実際に乗務開始できるか」から逆算して採用計画を作る必要があります。
今回の宮崎交通の事例で、2026年8月に来日した人材のデビュー予定が2027年9月以降と報じられている点は、この分野の人材育成に時間が必要であることをよく表しているように思います。
外国人運転士は人手不足の「即効薬」ではない

外国人材を採用すれば運転手不足がすぐ解決する、と考えるのは少し違います。
少なくともバス運転士については、採用、来日、免許取得、日本語教育、研修、在留資格変更までを含めた中長期の人材育成です。
だからこそ、企業側にも覚悟が必要です。
一方で、きちんと育成し、地域に定着してもらうことができれば、外国人材が地方交通を支える重要な担い手になる可能性があります。
外国人が運転する路線バスに乗る。
数年前なら少し未来の話に聞こえたかもしれません。
今はもう、制度の話ではなく現場で始まっている話です。
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特定技能「自動車運送業」で外国人材を採用する場合、通常の特定技能申請だけでなく、運転免許取得前の「特定活動(特定自動車運送業準備)」を含めたスケジュール設計が重要です。採用を検討する場合は、人材が来日してからではなく、採用計画の段階で在留資格、免許、日本語教育、支援体制を一体として確認することをおすすめします。
記事末尾の整理
【結論】
外国人バス運転士の受入れは、すでに実際の地域交通の現場で始まっています。
ただし、特定技能外国人を採用すれば直ちに乗務できるわけではありません。日本の第二種運転免許、新任運転者研修、日本語能力など複数の要件を満たす必要があり、海外人材については「特定活動(特定自動車運送業準備)」を利用する仕組みもあります。
自動車運送業における外国人採用は、「ビザ申請」ではなく「人材育成計画」として考える必要があります。
【根拠】
出入国在留管理庁は、自動車運送業を特定技能の対象分野とし、トラック、タクシー、バスを対象業務としています。
バス運転者については特定技能評価試験、日本の第二種運転免許、新任運転者研修等が求められます。
また、免許取得等の準備のため「特定活動(特定自動車運送業準備)」が設けられ、バス・タクシーの場合の在留期間は1年で更新不可とされています。
【注意点・例外】
日本語能力については、原則となる水準のほか、一定の追加措置を講じることでA2.2相当の外国人を受け入れる仕組みがあります。
ただし、日本語サポーター、日本語学習計画、地域要件などが関係するため、「N4に合格していればバス運転士になれる」と単純化することはできません。
実際の申請では本人の日本語能力、採用形態、運行形態、所属機関の体制等によって必要な対応が異なるため、個別事情により判断が分かれる場合は専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
出入国在留管理庁
「特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について」
出入国在留管理庁
「自動車運送業分野」
出入国在留管理庁
「自動車運送業分野の『特定技能1号』になるための準備活動」
出入国在留管理庁
「自動車運送業分野に特有の事情に鑑みて定める基準」
出入国在留管理庁・国土交通省関係資料
自動車運送業分野の人材基準、日本語能力要件
参考情報
MRT宮崎放送
「宮崎交通がバス運転士に特定技能外国人を初採用 来年9月以降にデビュー予定」
2026年8月25日
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