外国人雇用は在留資格の許可で終わらない――二つの公表から考える受入れ企業の責任
この記事のポイント

- 外国人労働者にも日本の労働関係法令とハラスメント防止措置が適用されます
- 登録支援機関へ支援を委託しても、雇用主としての労務管理責任は受入れ企業に残ります
- 医療調査の「15.7%」は、外国人患者の未払い率を示す数字ではありません
- 相談窓口や医療案内は、資料を渡すだけでなく実際に利用できる状態にすることが重要です
特定技能外国人への暴行疑惑を厚生労働大臣が受け止める

2026年9月、北海道の農業法人で働いていた特定技能のミャンマー人男性が、農業法人の実質的な運営者らから暴行や暴言を受けたと訴えた事案が報じられました。
9月8日の記者会見で、厚生労働大臣は報道を把握しているとしたうえで、個別事案への回答は控えました。
一方、一般論として、外国人を含むすべての労働者が安心して働ける職場環境を整えるため、事業主には関係法令に基づく雇用管理上の措置が義務付けられていると説明しています。
義務違反が疑われる場合には、都道府県労働局が報告徴収や是正指導を行うとの考えも示しました。
ここで大切なのは、報道された暴行や賃金控除などが、現時点で裁判や行政処分によって確定した事実ではないことです。
当事者側の訴えと報道内容だけで、事案の全体像や法的責任を断定することはできません。
制度上は相談窓口や定期面談が用意されていても、本人が「相談すれば不利益を受ける」と感じていれば、その仕組みは動きません。
書類上の体制と、実際に声を上げられる環境は別のものです。
医療機関の15.7%で未収金――数字の読み方に注意

同じ9月8日、厚生労働省は令和7年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」を公表しました。
2025年9月1日から30日までの受入実績について回答した5,461病院のうち、外国人患者を受け入れた病院は2,980病院、54.6%でした。
そのうち469病院、15.7%が外国人患者による未収金を経験しています。未収金1件当たりでは、70.9%が5万円以下でした。
また、回答した5,745病院のうち、外国人患者受入れ医療コーディネーターを配置していたのは159病院、2.8%にとどまります。
この数字は慎重に読む必要があります。
15.7%とは、外国人患者の15.7%が医療費を支払わなかったという意味ではありません。
外国人患者を受け入れた病院のうち、調査対象の1か月間に少なくとも未収金を経験した病院の割合です。
調査にいう外国人患者には、在留外国人だけでなく、訪日旅行者や医療目的で来日した人、分類が明らかでない人も含まれます。
したがって、この結果から外国人労働者の未払い率を算出することはできません。
未収金を「外国人だから支払わない」という話に短絡させるのは適切ではないでしょう。
保険加入、言語、費用の説明、緊急受診など複数の事情が関係します。詳しい発生理由は今回の資料だけではわかりません。
二つの問題に共通するのは「情報と相談先へのアクセス」

職場でのハラスメントと医療費の未収金は、一見すると別の問題です。
ただ、外国人が日本の制度や言葉に十分慣れていない場面では、共通する課題があります。
それは、必要な情報を理解できる形で受け取り、困ったときに安全な相談先へつながれるかという点です。
特定技能1号では、受入れ機関が支援計画を作成し、生活オリエンテーション、相談・苦情への対応、定期的な面談などを実施します。
支援の全部を登録支援機関へ委託することもできます。
しかし、委託によって受入れ企業が雇用主ではなくなるわけではありません。
日々の指揮命令、賃金の支払い、職場環境の整備、ハラスメント防止などの労務管理は、引き続き企業の責任です。
「支援は外部へお願いしているから、本人の生活や悩みはわからない」で済ませることはできません。
企業と登録支援機関が別々に記録を作るだけでは、現場の異変が見えなくなるおそれがあります。
欠勤、表情の変化、給与控除への疑問など、小さな変化を共有できる関係が必要です。
受入れ企業が確認したい四つのこと

相談窓口が経営者や直属上司から独立しているか
相談対象となる人物が直属上司や経営者である場合、社内窓口だけでは相談できません。
登録支援機関、労働局、労働基準監督署、警察その他の外部相談先について、本人が理解できる言語で案内しておくことが重要です。
相談したことを理由に不利益な取扱いをしない方針も、明確に伝える必要があります。
賃金控除の内容を本人が理解しているか
寮費、水道光熱費、食費などを給与から控除する場合、項目と根拠を明らかにし、給与明細を見れば本人が説明できる状態にしておきたいところです。
控除の適法性は、労働基準法上の賃金全額払いの原則や労使協定、本人との合意などを踏まえて個別に確認する必要があります。
定期面談が形式化していないか
面談記録が整っていても、勤務先の担当者が同席し続け、本人が自由に話せないのであれば、問題の把握は難しくなります。
母国語など十分に理解できる言語で、安心して話せる環境を作ることが大切です。
医療機関の利用方法まで具体的に説明しているか
健康保険への加入案内だけでなく、近隣の医療機関、予約方法、自己負担、夜間・休日の連絡先、通訳手段まで確認すると、受診の遅れや費用を巡る行き違いを減らせます。
これは、企業がすべての医療費を負担したり、外国人従業員の債務を保証したりするという意味ではありません。必要な制度につなぐための初期案内を整える、ということです。
在留資格の許可は「受入れの入口」にすぎない

行政書士として在留資格の申請に関わっていると、許可が出た瞬間には、本人も企業もほっとした表情を見せます。
ただ、本当の受入れはそこから始まります。
雇用契約書、支援計画、相談窓口、面談記録。どれも必要です。
しかし、それらが働く人の安心につながっているかは、書類だけではわかりません。
外国人材の受入れを安定させるには、問題が大きくなる前に話せる関係を作り、職場と生活の双方から孤立を防ぐことが欠かせません。
今回の二つの公表は、外国人雇用を「入国と在留資格の管理」だけで捉えないための材料になると考えています。
特定技能外国人の支援計画や外国人雇用の管理体制は、企業ごとの指揮命令系統、住居、給与控除、委託範囲によって確認事項が変わります。
判断に迷う場合は、行政書士、社会保険労務士、弁護士など、問題に応じた専門家へ早めに確認してください。
記事末尾の整理
【結論】
外国人雇用は、在留資格の許可や登録支援機関への委託だけで完結しません。受入れ企業には、ハラスメントを防ぎ、相談を機能させ、医療を含む生活上の情報へつなぐ実務が求められます。
【根拠】
厚生労働大臣の2026年9月8日会見、厚生労働省のハラスメント防止措置に関する案内、令和7年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」、出入国在留管理庁の1号特定技能外国人支援に関する案内に基づき整理しています。
【注意点・例外】
北海道の事案は、当事者側の訴えと報道に基づく段階であり、暴行、賃金控除その他の法的責任は確定していません。
医療調査の15.7%は外国人患者の未払い率ではなく、外国人患者を受け入れた病院のうち未収金を経験した病院の割合です。調査対象には在留外国人以外も含まれます。
賃金控除、ハラスメント該当性、支援計画の履行状況は個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
- 厚生労働省「上野大臣会見概要」令和8年9月8日
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「令和7年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」
- 同調査・結果概要版
- 出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援・登録支援機関について」
参考情報
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