外国人向け日本語教室が3カ月待ちに これは「一地域の話」ではない
福井新聞の報道によれば、福井県越前市で外国人向け日本語教室の受講希望者が増え、初回授業まで3カ月待ちの状態になっているとのことです。
2025年度の新規申込者数は前年度の110人から179人へ増加し、約1.6倍になったとされています。
このニュースを見て、私は単に「日本語教室が足りない」という話では終わらせられないと感じました。
外国人が地域で暮らす。企業で働く。子どもを学校に通わせる。病院に行く。役所で手続をする。災害時に避難する。こうした場面の土台にあるのが、日本語による最低限の意思疎通です。
もちろん、日本語ができない外国人を責める話ではありません。むしろ、働き手として、家族として、地域住民として受け入れている以上、日本語を学ぶ機会を地域社会がどう支えるのかという問題です。
福井県の資料でも、令和7年12月末時点の県内外国人住民数は20,772人で過去最多となり、4年連続で増加しています。市町別では越前市が6,102人で最も多く、福井市6,034人、坂井市2,152人と続いています。
越前市の問題は、外国人が多い一部地域だけの特殊事情ではありません。これから多くの自治体で起こり得る、かなり現実的な課題です。
越前市で日本語学習ニーズが高まる背景

外国人住民が多い地域では、生活日本語の需要が先に増える
福井県の令和7年12月末資料を見ると、県内で多い国籍・地域はブラジル、ベトナム、フィリピン、中国、韓国・朝鮮の順です。越前市についても、以前からブラジル人住民が多い地域として知られてきました。
福井新聞の記事でも、越前市国際交流協会の日本語教室の利用者はブラジル人が多いとされています。さらに、新規申込者の8割超が通訳を必要とするほどの日本語力だという関係者のコメントも紹介されています。
ここで大切なのは、日本語教室に来る人たちが、必ずしも「試験対策」を目的にしているわけではないという点です。
在留資格のため、仕事のため、子どもの学校対応のため、病院や役所で困らないため。理由はさまざまです。
行政書士として外国人の相談を受けていると、日本語が不十分なことで、制度上は問題がないはずの手続でも、説明不足や誤解が積み重なって不安が大きくなる場面をよく見ます。
日本語は、単なる語学ではありません。日本で暮らすための「生活インフラ」に近いものです。
特定技能・育成就労の流れも無関係ではない
日本語学習ニーズが高まっている背景には、外国人雇用制度の変化もあります。
出入国在留管理庁の公表資料によれば、令和7年6月末の在留外国人数は395万6,619人で、過去最高を更新しています。在留資格別では、永住者、技術・人文知識・国際業務、技能実習、留学、特定技能が上位に並んでいます。
特定技能1号では、多くの分野で日本語能力試験N4以上または国際交流基金日本語基礎テストなどによる日本語能力確認が求められます。
出入国在留管理庁のQ&Aでも、特定技能1号の日本語能力水準として、日本語能力試験N4以上や、今後、特定技能2号はN3以上などが求められるようになります。
さらに、今後本格化する育成就労制度では、就労開始前に日本語能力A1相当以上の試験合格、または相当する日本語講習の受講が求められる方向で整理されています。
つまり、外国人材を受け入れる制度そのものが、「日本語能力を一定程度確認する方向」に進んでいます。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、試験に合格すれば生活上の日本語が十分というわけではないことです。
N4やA1、A2という水準は、あくまで制度上の目安です。実際の職場では、方言、早口の指示、曖昧な表現、安全確認、報連相、クレーム対応など、試験とは違う日本語が飛び交います。
地域日本語教育は、ボランティアだけで支え切れるのか

市民サポーターの善意に依存しすぎていないか
越前市国際交流協会の日本語教室は、市民サポーターが講師を務め、週1回1時間、原則1対1で行われているとのことです。報道では、2025年度は44人のサポーターが3,000回超の教室を担当したとされています。
これは本当に大きな地域資源です。10年続けているサポーターの方の存在も紹介されていましたが、こうした人たちが地域共生の最前線を支えていることは、もっと評価されるべきだと思います。
一方で、行政書士の実務目線で見ると、少し心配な面もあります。
外国人住民が増え、日本語能力が在留資格や就労継続にも関係し、企業の人材確保にも直結するようになっている。それにもかかわらず、日本語支援の現場が「市民サポーターの善意」に大きく依存しているとすれば、制度と現場の負荷が釣り合っていません。
文部科学省の基本方針でも、日本語教育の推進は、外国人が日常生活・社会生活を国民と共に円滑に営むための環境整備に資するものとされています。
また、日本語教育を希望する外国人等に対し、その状況や能力に応じた学習機会が最大限確保されるべきだという考え方も示されています。
地域日本語教育は、もはや「余裕のある地域がやる交流事業」ではありません。外国人雇用、教育、防災、医療、福祉、治安、地域経済に関わる基盤政策です。
企業も「日本語は本人任せ」では済まなくなる
外国人を雇用する企業側にも、考えておくべき点があります。
採用時に「日本語が少しできる」と聞いていた。しかし、現場に入ると安全指示が伝わらない。生活ルールの説明が伝わらない。病欠や遅刻の連絡がうまくできない。こうした問題は、本人の努力不足だけで片付けられません。
特に特定技能や育成就労では、受入れ企業側に支援や育成の視点が求められます。登録支援機関に委託している場合でも、日々の職場で接するのは企業です。
地域の日本語教室に任せるだけではなく、企業内でのやさしい日本語、業務マニュアルの多言語化、OJTで使う言葉の整理、生活相談の導線づくりが必要になります。
ここは、企業にとってコストではなく、離職防止と安全管理への投資です。
日本語能力を「排除の基準」にしてはいけない

日本語ができないから不適格、ではなく、学べる環境があるか
最近の外国人政策では、「日本語能力」が重要なキーワードになっています。これは方向性としては自然です。日本で働き、暮らし、地域に参加する以上、日本語による意思疎通は必要です。
しかし、日本語能力を語るときには注意が必要です。
「日本語ができない外国人は困る」
「日本語ができる人だけ来ればいい」
こうした言い方は簡単ですが、それだけでは現場の解決になりません。すでに地域で働き、暮らしている人たちがいます。
その人たちが日本語を学ぼうとしても、教室が3カ月待ちになっている。この現実を見れば、問題は本人だけにあるとは言えません。
制度として日本語能力を求めるのであれば、学ぶ機会も同時に整える必要があります。これは入管行政だけでなく、自治体、企業、教育機関、地域団体が一緒に考えるべきテーマです。
日本語能力は、外国人をふるいにかけるための道具ではなく、日本で安心して暮らすための橋であるべきです。
「共生」はスローガンではなく、受け皿の設計
共生社会という言葉は、最近よく使われます。ただ、実務の現場では、共生はきれいな言葉だけでは進みません。
外国人が増えれば、役所の窓口も、学校も、病院も、自治会も、職場も変わらざるを得ません。日本語教室の3カ月待ちは、その変化に受け皿が追いついていないサインです。
越前市のように外国人住民が人口の一定割合を占める地域では、日本語支援を「希望者向けの講座」ではなく、地域インフラとして位置づける必要があります。
例えば、初級者向けのグループ教室、企業との連携講座、子育て世帯向けの日本語支援、災害時に必要な日本語、職場で使う日本語など、目的別に整理することが考えられます。
報道によれば、越前市国際交流協会も、日本語がほぼできない人を対象に7、8人のグループ教室を本格展開する計画とのことです。1対1の丁寧な支援は大切ですが、需要が急増している地域では、グループ化やカリキュラム化も避けて通れません。
行政書士として感じる実務上の意味

在留資格申請の実務では、日本語能力そのものが直接の許可要件にならない在留資格も多くあります。
例えば、技術・人文知識・国際業務や家族滞在、日本人の配偶者等などでは、すべてのケースで日本語試験の合格が必要なわけではありません。
しかし、生活実態、就労実態、扶養状況、婚姻実態、子どもの就学、地域での定着性を確認する場面では、日本語による意思疎通が間接的に影響することがあります。
申請書類の内容を本人が理解していない。会社からの説明が伝わっていない。学校や自治体からの通知を読めていない。こうした状態は、申請手続だけでなく、生活そのもののリスクになります。
その意味で、日本語教室の不足は、単なる教育政策の話ではありません。在留管理、外国人雇用、地域福祉、子どもの教育、災害対応にもつながる問題です。
外国人を受け入れる地域ほど、日本語支援の体制づくりを早めに考える必要があります。
- 記事末尾の整理
【結論】
越前市の外国人向け日本語教室が3カ月待ちになっている問題は、外国人住民の増加と在留資格制度の変化が重なった、地域共生の現実的な課題です。日本語能力を外国人本人だけの努力に任せるのではなく、自治体、企業、地域団体が「生活インフラ」として支える視点が必要です。
【根拠】
福井県の令和7年12月末資料では、県内外国人住民数は20,772人で過去最多、越前市は6,102人で県内最多となっています。
出入国在留管理庁の令和7年6月末統計では、在留外国人数は395万6,619人で過去最高を更新しています。
文部科学省の日本語教育推進基本方針では、日本語教育が外国人の円滑な日常生活・社会生活のための環境整備に資するものとされています。
特定技能1号では、多くの分野で日本語能力試験N4以上または国際交流基金日本語基礎テスト等が求められます。
育成就労制度では、就労開始前にA1相当以上の試験合格または相当講習受講が予定されています。
【注意点・例外】
日本語能力の要件は在留資格や分野によって異なります。すべての外国人に一律で日本語試験合格が求められるわけではありません。
日本語能力が低いことだけで、直ちに在留資格申請が不許可になるとは限りません。ただし、職務内容、生活状況、支援体制によっては審査上の説明が必要になる場合があります。
企業が外国人を雇用する場合、日本語教育を本人任せにすると、離職、安全管理、生活支援、職場トラブルにつながることがあります。
個別事情により判断が分かれるため、在留資格や外国人雇用の実務判断は専門家への確認が必要です。
【出典】
一次情報
福井県「福井県内外国人住民数の概況(令和7年12月末)」
出入国在留管理庁「令和7年6月末現在における在留外国人数について」
文部科学省「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」
出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」
出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」
参考情報
福井新聞「外国人向け日本語教室の希望者が増加、受講3カ月待ち 福井県越前市、その理由は」2026年6月2日
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