外国人雇用管理指針の改正は「新制度」ではなく、実務の再点検である
外国人雇用管理指針が改正され、2026年6月14日、2026年10月1日、2027年4月1日の三段階で適用されます。
この改正について、企業の方から見ると「また新しい義務が増えるのか」と感じるかもしれません。たしかに、在留カードの様式変更や読取アプリの活用など、採用現場で具体的に確認すべき事項は増えます。
ただ、今回の改正の本質は、まったく新しい制度が突然できたというより、これまで企業が当然に行うべきだった外国人雇用管理を、より明確に、より実務的に整理したものと見るべきです。
外国人を雇用するということは、単に在留カードを確認して、雇用契約を結べば終わりではありません。労働条件、社会保険、安全衛生、日本語理解、生活支援、在留資格上の活動範囲まで、複数の制度が重なります。
行政書士として企業から相談を受けていると、トラブルの多くは「悪意」よりも「確認不足」から起きています。特に中小企業では、採用担当者が在留資格、労務、社会保険、生活支援まで一人で抱えていることも珍しくありません。
今回の改正は、その現場に対して「ここまでは確認しておきましょう」と線を引いたものと受け止めています。
2026年6月14日からの主なポイント

同一労働同一賃金の考え方を外国人労働者にも明確に適用
まず重要なのは、短時間・有期雇用労働者や派遣労働者である外国人について、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けてはならないという点です。
これは、外国人だから賃金を低くしてよい、という話では当然ありません。労働基準法上も、国籍を理由とした賃金、労働時間その他の労働条件に関する差別的取扱いは禁止されています。
実務上よく問題になるのは、表向きは「外国人だから」ではなく、「契約社員だから」「技能がまだ十分ではないから」「日本語が不十分だから」といった説明になっているケースです。
もちろん、職務内容、責任の程度、配置転換の範囲、経験、能力などに応じて待遇差が生じること自体はあり得ます。しかし、その差に合理的な説明ができるかどうかが重要です。
たとえば、同じ工程で同じ責任を負い、同じ勤務時間で働いているにもかかわらず、外国人だけ賞与の対象外、手当の対象外という運用をしている場合、その理由を説明できるでしょうか。
これからは、外国人雇用の場面でも、賃金表、評価基準、手当の支給基準を「説明できる状態」にしておくことが、より重要になります。
日本語学習支援と生活支援が、企業の定着戦略になる
次に、日本語学習支援や生活支援に関する記載が充実しています。
ここで誤解してはいけないのは、企業が学校のように日本語を教えなければならない、という単純な話ではないことです。
むしろ実務上は、外国人労働者が職場や地域で孤立しないように、必要な情報へつなぐことが求められていると考えるべきです。
たとえば、地域の日本語教室の情報を伝える。役所、医療機関、金融機関の利用方法を説明する。生活上の困りごとを相談できる窓口を社内に置く。安全衛生教育では、難しい日本語だけで説明せず、図や動画、母国語資料を使う。
こうした対応は、一見すると手間に見えます。しかし、外国人材が早期離職する背景には、仕事内容そのものよりも、生活の不安、言葉の不安、相談先の不在があることも多いです。
特定技能や今後の育成就労制度では、企業が「選ばれる側」になる流れが強まります。日本語学習や生活支援は、単なる親切ではなく、人材定着のための実務対応になっていくと感じます。
在留カード等読取アプリの活用は、採用担当者を守る確認作業
2026年6月14日からの実務対応として、在留カード等読取アプリの活用も重要です。
外国人を雇い入れる際、企業は在留カードやパスポート等により、氏名、在留資格、在留期間、在留カード番号などを確認し、外国人雇用状況届出を行う必要があります。
ここで問題になるのが、偽造・変造された在留カードです。
券面だけを見ても、一般の採用担当者が偽造を見抜くことは簡単ではありません。そこで、出入国在留管理庁が提供する在留カード等読取アプリを使い、ICチップ内の情報と券面の記載を照合することが適切とされています。
実務上、これはかなり重要です。
不法就労助長罪では、事業主が「知らなかった」と主張しても、確認を怠った過失がある場合には責任を問われる可能性があります。つまり、在留カードのコピーを取って保管しているだけでは、十分とは言い切れない場面が出てきます。
今後は、採用時のチェックリストに「読取アプリで確認したか」「券面情報とIC情報に相違がないか」「在留資格と業務内容が合っているか」を入れておくべきでしょう。
特定在留カードの開始で、カードの見方も変わる

2026年6月14日から、在留カードとマイナンバーカードの機能を一体化した「特定在留カード」の運用が始まります。
これにより、従来の在留カードとは券面のレイアウトが変わります。在留資格、在留期間、在留カード番号など、外国人雇用状況届出で確認すべき項目の位置も変わるため、採用担当者が旧様式の感覚だけで確認すると、戸惑う可能性があります。
ここで大切なのは、「カードが変わる」こと自体ではありません。企業側が、新旧両方の様式を理解し、必要な確認項目を間違えずに拾えるかどうかです。
特に注意したいのは、在留資格名だけを見て判断しないことです。
たとえば、「特定活動」は指定書の内容を見なければ、どのような活動が認められているか分かりません。「特定技能」についても、指定書で特定産業分野を確認する必要があります。留学生のアルバイトであれば、資格外活動許可の有無と週28時間以内の制限も確認しなければなりません。
カードの様式が変わっても、確認すべき実務の本質は変わりません。大事なのは、在留資格、業務内容、就労可否、届出内容が一本の線でつながっているかどうかです。
2026年10月1日からは、待遇差の説明に関する明示も重要に

第二段階として、2026年10月1日からは、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際の労働条件明示事項として、「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる」旨の明示が必要になります。
外国人労働者にも当然に適用されます。
ここで企業が気を付けたいのは、説明義務を形式的な文言追加だけで終わらせないことです。
外国人労働者から「なぜ正社員と手当が違うのか」「なぜ賞与がないのか」と質問されたとき、本人が理解できる方法で説明できる体制が必要です。日本語で難しい労務用語を並べるだけでは、説明したことにならない場面もあるでしょう。
母国語資料、平易な日本語、通訳、図解などを活用し、本人が理解できる形にすることが大切です。
この点は、労務管理だけでなく、在留資格申請の場面にも影響します。待遇や職務内容の説明が曖昧な会社は、雇用契約書、理由書、職務内容説明書にも曖昧さが出やすくなります。結果として、在留資格の審査でも説明に苦労することがあります。
2027年4月1日からは育成就労制度を見据えた雇用管理へ

第三段階として、2027年4月1日からは、技能実習制度に代わる育成就労制度の施行が予定されています。
育成就労制度では、外国人が目標とする技能や日本語能力を修得できるように取り組むこと、送出機関の適正性、手数料負担、転籍制限の説明などが重要になります。
これまでの技能実習制度では、受入れ後の実務が監理団体任せになっていた企業も少なくありません。しかし、育成就労制度では、企業自身が外国人材をどう育て、どう定着させるかがより問われることになります。
特に注目すべきは、転籍に関する説明です。
今後は、外国人材を「辞めにくくする」のではなく、「働き続けたいと思ってもらう」雇用管理が必要になります。住環境、賃金、相談体制、日本語学習支援、キャリア形成のどれか一つでも大きく欠けると、制度上の問題だけでなく、人材確保の面でも不利になります。
企業が今すぐ見直すべき実務対応

今回の改正を受けて、外国人を雇用している企業、これから雇用する企業は、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
在留カード等読取アプリを導入し、採用担当者が使える状態にすること。
新様式の在留カード、特定在留カードの見本を確認し、在留資格、在留期間、カード番号の位置を把握すること。
外国人雇用状況届出の期限と確認項目を、社内の採用フローに組み込むこと。
賃金、賞与、手当、福利厚生について、外国人労働者や非正規労働者との待遇差を説明できる状態にすること。
日本語学習支援、生活相談、行政手続の案内など、定着支援の担当者や相談窓口を決めること。
在留資格ごとに、就労できる業務、指定書の確認、資格外活動許可の有無をチェックすること。
この中でも、まず取り組みやすいのは、採用時チェックリストの整備です。
在留カードを見たか。読取アプリで確認したか。指定書を見たか。雇用契約書の業務内容と在留資格が合っているか。外国人雇用状況届出を期限内に出したか。
こうした項目を一つずつ残しておくだけでも、確認漏れは大きく減ります。
外国人雇用は「採用」よりも「管理」が問われる時代へ

外国人雇用の相談では、どうしても「この人はビザが取れますか」という入口の話に集中しがちです。
もちろん、在留資格の該当性や許可可能性は非常に重要です。しかし、これからの外国人雇用では、採用後の管理体制まで含めて見られる場面が増えていくと考えています。
雇用契約書の内容、実際の業務、賃金、社会保険、届出、日本語支援、生活支援。これらがばらばらだと、どこかで無理が出ます。
外国人雇用管理指針の改正は、企業にとって負担にも見えます。ただ、見方を変えれば、外国人材を安心して受け入れるための実務の地図でもあります。
採用時にきちんと確認する。働き始めてからも説明する。困ったときに相談できる窓口を置く。必要な届出を期限内に出す。
一つ一つは地味ですが、この積み重ねが、企業を守り、外国人労働者を守ります。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容、雇用管理の状況、会社の受入体制によって結論が変わることがあります。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 記事末尾の整理
【結論】
2026年6月14日からの外国人雇用管理指針改正は、外国人雇用の現場に対し、在留カード確認、待遇差の説明、日本語学習支援、生活支援、届出管理をより明確に求めるものです。企業は、採用時だけでなく、雇用継続中の管理体制を見直す必要があります。
【根拠】
厚生労働省の外国人雇用管理指針では、外国人労働者にも労働関係法令・社会保険関係法令が適用されること、在留資格の範囲内で適正に就労させること、労働条件の明示、均等待遇、不合理な待遇差の禁止、日本語学習支援、生活支援、外国人雇用状況届出、在留カード等読取アプリの活用等が定められています。
また、2026年6月14日から特定在留カードの運用が始まり、2026年10月1日、2027年4月1日にも段階的な適用が予定されています。
【注意点・例外】
在留資格「特定活動」は指定書の内容確認が不可欠です。
在留資格「特定技能」は在留カードだけでなく、指定書により特定産業分野を確認する必要があります。
留学生アルバイトは、資格外活動許可の有無と週28時間以内の制限を確認する必要があります。
待遇差がすべて違法になるわけではありませんが、職務内容、責任、配置変更範囲、待遇の性質に照らして合理的に説明できることが重要です。
個別事情により判断が分かれるため、専門家への確認が必要です。
【出典】
厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」
厚生労働省「外国人雇用管理指針改正リーフレット」
厚生労働省「外国人雇用状況の届出」案内
出入国在留管理庁「特定在留カード等交付申請」案内
参考情報:朝日新聞SDGs ACTION!「外国人雇用管理指針の改正、2026年6月14日からの三段階の適用」杉本崇、2026年6月12日
【確実性:高】
厚生労働省の改正後指針、リーフレット、入管庁の公式案内を確認しているため。ただし、2027年4月1日施行予定の育成就労制度については、今後の省令・告示・運用要領により実務詳細が追加される可能性があります。
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