ビザ厳格化を「中国人問題」にしないために 制度適正化と共生を考える
この記事のポイント

- 「経営・管理」の許可基準はすでに改正されています
- 永住許可の年収・年金・日本語要件は、現時点では改定案です
- 一部のSNS投稿を「在日中国人全体の本音」と受け取ることには注意が必要です
- 制度の適正化と、外国人を国籍で一括りにすることは別の問題です
現代ビジネスは、外国人政策の見直しに対する在日中国人の賛否を紹介しました。
経営・管理ビザや永住許可が厳しくなることを「排外主義」と批判する人がいる一方、「制度の本来あるべき姿に戻っただけ」と評価する在日中国人もいるという内容です。
外国人本人の受け止めを知る記事として興味深いところがあります。ただ、制度の事実、個人の意見、特定の事件に対する評価が一つの記事の中に並んでいます。
ここは少し立ち止まって読み分けた方がよいと感じます。
経営・管理と永住許可は同じ段階ではない

「経営・管理」はすでに改正済み
在留資格「経営・管理」の新しい許可基準は、2025年10月16日に施行されています。
主な変更点は、資本金等3,000万円以上、1人以上の常勤職員、申請人または常勤職員の一定の日本語能力、申請人の学位または経営・管理経験、専門家が確認した事業計画書などです。
単に会社を設立しただけでは足りず、経営者本人が実際に事業を運営できる体制まで問われる制度になりました。
出入国在留管理庁の改正案内
ただし、改正前から「経営・管理」で在留している人については経過措置があります。2028年10月16日までの更新申請では、新基準を満たしていないことだけで一律に不許可となるわけではありません。
「3,000万円を直ちに準備できなければ帰国」という理解も正確ではありません。
永住許可はまだ改定案
一方、永住許可の年収、年金、日本語能力などの見直しは、本記事作成の2026年8月20日現在、パブリックコメント中の改定案です。
案では、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準、将来の年金受給見込額、日本語教育の参照枠B1相当、日本の制度やルールへの理解などを審査上の要素としています。
永住許可ガイドライン改定案の概要
よくある「30年間年金を払わなければ申請できない」という理解は誤りです。
問題とされているのは、将来の受給見込額が、一定の年収水準で30年間厚生年金に加入した場合の水準に達するかどうかです。不足する場合には金融資産も考慮するとされています。
ただし、必要となる金融資産の一律の金額は概要資料に示されていません。
最終的にどのような資料と方法で判断されるのかは、現時点ではわかりません。
日本人、永住者または特別永住者の配偶者や子などは、入管法上、独立生計要件の適用を受けない類型です。
もっとも、改定案では、将来公共の負担となる現実的なおそれがある場合には、国益要件で消極的に評価するとしています。
「永住権」は一般的な呼び方であり、入管法上の正式な手続名は「永住許可」、許可後の在留資格は「永住者」です。
これを「許可」と説明すること自体は、入管法第22条に沿ったものです。
出入国在留管理庁の永住許可説明
「在日中国人の本音」は一つではない

2025年末の在留外国人数は412万5,395人で、中国籍の在留者は93万428人でした。
出入国在留管理庁の統計
同じ中国籍でも、留学生、会社員、経営者、配偶者、永住者など、来日の経緯も生活歴も異なります。数名のSNS投稿や取材事例を、93万人全体の考え方として受け取ることはできません。
報道には、「ニューカマーは日本社会に無知である」「関係業者の中には不正に関わる者が少なくない」といった強い評価も登場します。
しかし、これらが在日中国人全体や関連業者全体の傾向を示す公的統計は、確認できませんでした。
個別の不正行為は、国籍にかかわらず法令に基づいて調査し、処分すべき問題です。
特定の事件から、その国籍の人々全体の性質を導くと、制度適正化の議論が感情論に変わってしまいます。
申請96%減を「成功」と言い切れるか

経営・管理については、改正前の月平均約1,700件から、改正後は約70件となり、在留資格認定証明書交付申請が約96%減少したと報じられています。
TBS NEWS DIGの報道
これは、入口のハードルが大きく上がったことを示しています。
ただし、「申請が96%減った」ことと、「不正な申請を96%排除できた」ことは同じではありません。
実体のない会社や在留目的だけの起業を排除することは必要です。
一方で、日本で真剣に事業を始めようとする小規模な起業家まで、一律に入口から排除していないかも検証しなければなりません。
申請件数の減少だけで制度を評価するのではなく、許可後の事業継続、雇用、納税、地域経済への貢献まで見ていく必要があります。
「日本に溶け込む意思」は審査基準になるのか

記事では、日本社会に溶け込もうとする努力の有無が重要だと論じられています。
気持ちは理解できます。ただ、「日本に溶け込む意思」という言葉は、入管法上の審査基準ではありません。
本人が日本を好きか、日本政府を批判しているかといった内心を基準にすることも適切ではないでしょう。
審査で確認すべきなのは、経営・管理であれば、実際に事業を経営しているか、納税や社会保険などの義務を履行しているか、許可を受けた活動が主たる活動になっているかです。
言論活動をすること自体と、経営・管理の活動実態がないことは分けて考えなければなりません。
共生とは、外国人に無条件で合わせることでも、日本人と同じ考え方を求めることでもありません。守るべきルールを明確にし、そのルールを多言語で伝え、違反には国籍を問わず公平に対応することだと思います。
行政書士として感じること

在留資格の審査は、これからさらに「形式」より「実態」を見る方向へ進みます。
外国人経営者であれば、決算書、取引記録、事業所、雇用状況、許認可、公租公課、本人の活動記録を日常的に整えておく必要があります。
永住を考える人は、収入だけでなく、世帯状況、年金見込額、金融資産、納税・社会保険の履行状況も早めに確認した方がよいでしょう。
厳格化を恐れて必要以上に萎縮する必要はありません。
ただし、「今まで大丈夫だったから、次回も同じ」という考え方は通用しにくくなっています。
在留資格申請や外国人雇用の判断は、制度の条文だけでなく、実際の活動内容や生活状況によって結論が変わります。
個別事情により判断が分かれるため、早めに専門家へ確認することをおすすめします。
4. 記事末尾の整理
【結論】
ビザ制度の適正化は必要ですが、一部の不正事例やSNS投稿を、特定国籍の外国人全体の評価へ広げるべきではありません。
客観的な活動実態と法令遵守を確認する制度、正確で多言語による情報提供、公平な運用を同時に進めることが重要です。
【根拠】
- 「経営・管理」の新基準は2025年10月16日に施行済み
- 永住許可ガイドラインは2026年8月20日時点で改定案
- 入管法上の正式名称は「永住許可」
- 2025年末の中国籍在留者は93万428人
- 経営・管理の新規申請約96%減は報道及び政策資料で示された数字
【注意点・例外】
- 既存の「経営・管理」在留者には経過措置があります
- 永住許可の「30年」は、30年間の加入実績を一律に求める意味ではありません
- 配偶者や子など、独立生計要件の適用を受けない類型があります
- 永住許可の最終的な基準や具体的な必要金額は、今後変更される可能性があります
- 記事中のSNS投稿や人物評価は、在日中国人全体を代表するものではありません
【出典】
一次情報
- 出入国在留管理庁 在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について
- e-Gov 永住許可に関するガイドライン改定案の概要
- 出入国在留管理庁 「永住者」の適正化に係るパブリックコメント
- 出入国在留管理庁 永住許可(入管法第22条)
- 出入国在留管理庁 令和7年末現在における在留外国人数
参考情報
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